元住Catch愛

元住catch愛

一章  集い
  ある晴れた日の午後、冬なのにタンクトップを着た青年が綱島街道を爆走している。
「うぉぉぉーーーーーー。」
全身汗まみれのその青年は叫びながらひたすら風を切って走っている。
 青年が焼肉交差点に差し掛かったところで、冬なのにアイスをくわえた結構太めの体格の、はっきり言うとデブの青年が驚いた顔で見ている。
 そのデブの前をタンクトップが駆け抜けたとき、デブがアイスでいっぱいになった口を開く。
 「おい、タンク!」
 見た目通りのあだ名のタンクトップの青年がそれに気付き立ち止まって答える。
 「ブーヤンか……。お前もそんなところでのほほんと菓子食ってる場合じゃねーぞ!」
タンクはそういうとブーヤンに何かを言う。車の音にかき消されて口の動きしかわからないが。
 「な、な、な、なんとそりゃアイスくっとる場合じゃないんじゃないですかぁ!」
そういうとブーヤンも加わり、再びタンクは爆走、ブーヤンは力走し始める。  
 しばらく走ったところで、タンクはあるアパート一階の、若干薄暗い部屋のドアをおもいっきり開ける。 
  するとそこには薄めのサングラスをかけ無駄にタバコをふかしている男と、頭に茶色いターバンを巻いた体格のいい男がソファーに腰掛けている。
 「どーしたタンク?」
ターバンがおもむろに口を開く。
 「どうせ大したことじゃないんだろ。別にあせんなよ。」
グラサンは面倒くさそうにいう。
 「それがよ、サムがまたやっちまったんだよ!」
タンクが声を荒げていうとブーヤンも涙目になりながら言う。
 「サムさんがまた飛び降りたらしぃーんすよぉ……。」
 「あのバッカまたかよ!」
グラサンはソファーの前にあるガラスの机を思いっきりたたきながら言う。
 「こうしちゃいらんないわな。スグいくぞ。」
そうターバンは落ち着き払って冷静に言う。
 「そういえばフィービーはどうした?」
タンクが質問するとグラサンが言う。
 「あぁ?あの女の事だからまたどっかの男んとこか、そこらでわけわかんねーことでもしてんだべ!いいから行くぞ!」
ターバンはまたもや冷静に言う。
 「タンク、フィービーに連絡頼んだ。」
そしてそれぞれは部屋を飛び出していく。

 ターバンとグラサンはサムが飛び降りた現場へと着く。そこは大きなマンションが立ち並ぶニュータウンの一角である。辺りにはパトカーが二台止まり、おばちゃんが警察官に事情を聞かれている。そして救急隊員が頭から血を流した長髪の男を運ぼうとしている、その時、
 「おらぁぁぁあぁ!サムぁっつつつつつっつ!」
グラサンが突然叫ぶ。辺りは静まり返り、一気に人々の目がグラサンへと移される。グラサンは担架に乗せられ、頭から血を流した男を上から思いっきり殴りつける。担架は地面に落ち、救急隊員たちの目は点どころか、点を英語で言ったドットになっている。次の瞬間弱々しいかすれた声が辺りにこだまする。
 「わりぃぃ……。」
どうやら長髪の男の声らしい。
 「てめぇ、次やったらマグで殺すぞ!」
グラサンはそう言い放つと背中を向け去っていく。
 「……。」
ターバンは何も言わずに、長髪の男の肩をポンと叩くと、グラサン同様背中を向け去っていく。
 「……。」
長髪の男は担架に寝そべったまま空を無言で見上げている。
 そして騒然としていた辺りは、ふと我に返り元の作業へと戻る。
 「あの子達何なの?」
 「あんな重症なのに殴るなんてねぇ…。」
おばちゃんたちが井戸端で話している。もちろんニュータウンに井戸はないが。その横を担架が通り、長髪の男は救急車へと運び込まれる。

 救急車が走り去るのとほぼ同時に、タンクとブーヤン、そして金髪でロングヘアーの若い女が走ってやってくる。
 「どうやら無事みたいですね。」
ブーヤンがホッとした顔で言う。
 「良かった、あいつもどういう身体してるんだか…。なあフィービー。」
タンクもタンクトップから半ばはみ出した胸を撫で下ろす。
 「だから来る必要なかったのよー。毎度毎度のことじゃない、ったく!」
フィービーはホントに不機嫌そうな顔ではき捨てる。
 「とりあえずペンタゴンに戻るか!」
 「ですね、グラサンさんとターバンさんも戻ったみたいだし。」
タンクの提案にブーヤンも同意する。そして三人はグラサン、ターバンと同じ方角へと歩き去る。

 タンク達はペンタゴンと呼ばれる焼肉交差点から程近い、フレグランス木月105号室のドアを開けた。そこにはターバンとグラサンがヤーコーばりにタバコをふかしながら静かに話している。
 「おう、お前らも行ってきたか。」
タンクたちに気づいたターバンが声を掛ける。
 「……。」
グラサンはタンク達に背を向けたまま何も言わない。
 「とりあえずサムが戻ってきたら六者協議すっからね。」
ターバンが彼らに伝える。
 「その前に、とりあえずこの五人でサムについて話そうぜ。」
タンクがグラサンの顔を横目で見ながら提案する。
 「そうですね。それがいいっすよ。みんなで考えましょうよ!」
またもや自分がないかのようにブーヤンがタンクに同調する。その瞬間、
 「無駄無駄無駄無駄無駄ぁああぁぁ!」
グラサンがジョジョで出てきそうな台詞を叫ぶ。
 「あいつはいつまでたってもガキなんだよ!周りなんて見えちゃいねぇ―し、後ろしか見てないようなやつなんだよ!それ以上の話なんてねーよ。」
グラサンが強い口調で言う。
 「ちょっと待てよ。確かにサムはそういうところあるよ。でもな、あいつの過去を考えたら…」
タンクが熱く語りかけたその時、
 「過去は過去、明日は明日、今日は今日で俺は俺。古きを温めて新しきを知る、これ楽しからずや。孔子の旦那の言葉。」
ターバンが落ち着いて言う。
 「まあ、あいつが戻ってくるまでは議論はおあづけで。」
ターバンがそう付け加えるとみんな気持ちを切り替えたかのように、机の上に広げられたモノポリーを始める。
 「じゃ、フィービーからな!」

 共済病院のある病室、ロングヘアーを後ろで縛り、TRFのサムに似た髪形の男が横たわっている。そうサムだ。
 「サムさーん、体調はいかがですか?みんなに心配かけちゃだめですよ。」
看護婦さんがサムに優しく話しかける。
 「すみません…。」
サムは聞き取れるか聞き取れないか、おばあちゃんなら絶対聞き取れないぐらいの小声で言う。
 「私に謝ってもね。あんな状況で殴ってくれる友達がいるなんて。よく考えなさいよ。」
そう言うと看護婦さんは銀色の、小学生が気に入りそうなくらい光っているトレーを持ち病室を後にする。
 「……。」
サムは無言のまま、頭の包帯を強く握る。

二章  想起
 サムが飛び降りてから二週間の時が流れた、ある日のペンタゴン。
「ゲッツ!」
グラサンが黄色いタキシードを着たままモノポリーに熱中している。そしてそれを微笑ましく見守るターバンと、イライラしながら胸筋をさするタンク、そしてガリガリ君をガリとも言わせず丸呑みするブーヤン。ペン連射並の速さでメールを打ち、モノポリーどころではないフィービー。そう、いつものペンタゴンである。窓際では鳥が囀っている。
 「ガチャ…」
ドアが開く音がするが、彼らは誰一人として気付かない。
 「…。」
ドアを開けた男は無言のまま手に持ったラジカセを床に置き、再生ボタンを押す。
 「♪boy meets girlそれぞれの~じんせーいの宝探しだね~」
TRFの名曲が流れた瞬間、一同がその男の方を向く。そう、退院したサムだ。
 「ども。」
サムはバツが悪そうに挨拶する。
 「クソが…」
グラサンはそう言うとモノポリーに戻る。 
 「サームーさ~んじゃないですかぁぁぁ。」
ブーヤンはドロドロ君を口からたらし、涙を浮かべながら言う。タンクとフィービーも笑顔で頷く。
 「遅かったな。モノポリーも2000回はやって飽きちまったし、まあ座れや。」
ターバンがそう言うとサムはグラサンを横目で見ながらソファーに腰掛ける。
 「ちょっと待てよ。その前にやる事があんだろ。」
グラサンがキレ気味に言う。
 「まあまあ、それはおいおいでいいだろ?」
タンクがグラサンをなだめる。
 「よかねーんだよ!ラジカセ鳴ってちゃ話せねーだろ!」
グラサンが怒鳴る。
 「そっちかよ!」
一同は突っ込みを入れる。

 時は遡り、三年前の焼肉交差点。クラクションが鳴り響き、車が長蛇の列を
作っている。そして道行く人々が次々と立ち止まって人だかりを作っている。
 「何?あれ!」
 「死んでんのかしら?」
 「男?女?」
人々が騒いでいる。
 「なーにやってんだよ!こっちは急いでんだよ!」
トラックの運ちゃんが「愛裸舞優」とイカした台詞の入ったデコトラから、愛
すら感じられない台詞を吐く。そして馬鹿でかい音楽が当たり一面を包んでい
る。
 「♪CRAZY GONNA CRAZY雪が降る街並み~を~、LOVE YOU GONNA TAKE YOU二人踊り続けーる~…」
そう当にCRAZYな男、サムが交差点に大の字で寝ている。そして脇にはこ
の音楽を奏でるラジカセが一つ。
 「…。」
サムは無言で空を仰ぐ。

 一方その当時のペンタゴン。
 「何か外がうっせーな!」
二十歳のグラサンが相変わらずキレ気味で言う。
 「ちょいと俺見てくるわ。」
二十歳のターバンが落ち着いて言う。
 「俺も行って、この音楽鳴らしてるクソやろうに一発かますわ!」
そうグラサンが言うと二人は音楽の鳴り響く交差点へ向かう。

 「貴様かぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
交差点に着くや否や、グラサンがべジータばりにプライドの高そうな台詞を吐
く。そしてそれまで騒いでいた人々や車は静まり返る。
 「…。」
サムにはグラサンの声が届いているのか、いないのか無反応である。
 「こらぁ、聞いてんのかこのやろー!!」
グラサンは交差点の真ん中に侵入し、サムの胸倉を掴む。ふとグラサンがター
バンに目をやると、ターバンが顎で合図をしている。
 (とりあえず交差点から出ろ…か)
グラサンはそのメッセージを理解し、サムの胸倉を掴んだまま「焼肉北京」側
に掃ける。
 
 渋滞は次第に回復し、人々は徐々に去っていく。そんな中胸倉を掴むグラサ
ンの手を払ってサムは言う。
 「あんたらいったい何なんだよ。ほっといてくれ。」
 「別にお前にかまってるわけじゃない。ただ音がうるさかったからこのグラサンと来ただけだぞ。お前が死のうが生きようが、交差点でTRFを聞こうが、サムを意識した髪型をしていようが、知ったことじゃないけどね。」
ターバンは落ち着いて言い放つ。
 「オレはTRFみたいなチャラい音楽は嫌いなんだよ、ボケェ!」
グラサンは未だにクレイジーに鳴り響くラジカセを蹴り飛ばす。
 「てめぇええええぇ、何してくれてんだよ!」
それまで全く生気の感じられなかったサムが突然、大声コンテスト優勝者バリ
の声でグラサンを怒鳴りつける。
 「ああ、やんのかこらぁあぁぁ!」
グラサンがキレ返したその時、綱島街道に背を向けていたターバンの肩から血
が噴き出す。

 突然の事態にサングラスの下の目を丸くしたグラサンが、ふと目をやると、
矢上川方向にナイフを持った男が走っていくのが見える。
 「貴様ぁぁぁあぁぁぁあああぁぁ!」
グラサンが雄たけびを上げる。グラサンが男を追おうと走り出したと同時に、ターバンが口を開く。
 「待て、グラサン。オレは大丈夫だ。アレは追わなくていいぞ。」
グラサンがすかさず言う。
 「……了解。」
その光景を見ていたサムがグラサンに噛み付く。
 「ちょっと待てよ。テメェさっきまでの威勢はどうしたんだよ?テメェのダチがやられたのにそのまま逃がすのかよ!」
グラサンが威勢を取り戻し叫ぶ。
 「テメェには関係ねぇだろ!邪魔だから早く帰ってクソして寝ろ、ボケぇ!」
 「……了解……ってコラ!オレのラジカセどうしてくれんだよ!お前をこの壊れかけのラジオくらいボコボコにしねぇと帰れねーだろ、この色眼鏡野郎!」
サムがノリ突っ込み気味に反論する。
それを聞いたグラサンが言う。
 「お前おもしれーこと言うな。ボコボコになんのはテメェだけどそれは後回しだ。ターバンの読みが当たったからな。」
 「はぁ?」
サムが怪訝そうにグラサンの視線の先に目をやる。すると矢上川とは逆の方向
から服を血に染めた小学校五年生くらい、クラスでの係りはおそらく保健係り
であろう女の子が、悲壮な顔つきで走ってくる。

「助けて…下さい…お父…さんを…」
保健係の女の子は腹部から血を流しながら、三人に訴えかける。
それにターバンが答える。
 「大丈夫。助けてやる。だからまず何があったかを話してくれ。」
そういうとターバンは肩から流れる血を全く気にもせず、女の子を抱えてフレグランス木月へと戻る。

 薄暗いペンタゴンのソファでターバンは女の子の腹に包帯を巻きつける。
「とりあえずこれでいい。話をしたら病院に連れてってやるからな。」
「ありがとう。」
そう言うと女の子は続ける。
「ターバンさんを傷つけたのは私のお父さんなんです。多分たまたまぶつかっちゃっただけだと思います、だから許してください……」
「許す許さないは今決められないでしょ。で、なんで白昼堂々お前の親父はナイフを握り締めてるんだ?どれだけ尖ってんだよ。」
肩をトイレットペーパーでグルグル巻きにし、肩からの血を抑えながらターバンは冗談交じりに聞く。
 「今日学校から帰るといつもはハローワークに行ってるハズのお父さんの靴
が玄関にあったんです。少しおかしいなと思いつつ家に入ると、キッチンでお母さんとお父さんがもみ合ってて……お母さんも血を…でお父さんが私に気付いて…ナイフを突きつけて………」
女の子はそこまで言うと涙ぐみ座り込んでしまう。
 「つまり借金か何かがあって心中しようとしてダメだったんだろ、クソチキン野郎がよ!」
グラサンはいつも通りのヤンキー口調で言う。女の子はそれにただ頷く。
 「じゃあこんなことしてる場合じゃないわな。ほっといたら死ぬかもなそいつ。それにこの肩の借りはかえさせてもらわないと。で、お前親父の行きそうなとこ言うしかないっしょ。」
ターバンはいつも通り冷静に言う。
 「モグラ博士館…お父さん大好きだったから。」
女の子は徐に言う。
 「モグラか!あそこなら矢上川沿いを漆手黒川通りに出たところだから近いぞ!うっし、いくべ。」
グラサンがそう言うや否やターバンとグラサンはペンタゴンを飛び出す。
 「ちょ、おいっ、この子どうす…んだよ。」
取り残されたサムは女の子を抱きかかえ小走りでターバンたちの後を追う。
 
 「おいターバン、ところでモグラ博士館ってモグラでもいるのかよな!?」
グラサンは全速力で走りつつ、少し前を行くターバンに尋ねる。
 「そうそう、モグラの動物園みたいなもんでしょ…ってことはないでしょ。あれは雨水貯留施設工事のインフォメーションセンターで、地下に大きな管を建設して雨水を一時的に貯め込み、晴天時に少しずつ川に放流してるんだ。また、沈殿した汚水は下水処理場で処理をして放流してるから、水質向上にも役立ってるらしい。その貯留管は直径10.4m、延長2560mで21万トンの雨水を貯え深さ67mの発進立坑から泥水加圧シールド工法により建設されてるらしいよ。……まあつまりモグラはいないってことで。」
ターバンは冷静に、かつ必要以上にモグラ博士館について説明する。
 「まあよくわからねーけど、それだけ話しながら全力疾走してるお前がすげーよ!お前も地下にエネルギー蓄えてんだろ。」
グラサンはさっきの説明を理解したかのようなジョークを織り交ぜ言う。そう
こうしている内にモグラ博士館が二人の視界に入る距離になっている。

 「着いた…がどこにもいねーぞチキンくんはよぉ!」
着くや否やグラサンが周囲を見渡し嘆く。
 「…いや、よく見ろ、モグラの絵と同化していて分かりづらいが建物の上にいるぞ。モグラなら地下に潜れって話でしょ、上かよ上。」
ターバンは建物に描かれたモグラのイラストの方を見上げながら言う。そこに
はベージュのスーツに、赤黒い絵の具を溢したように血をつけた松山千春似の
男が立ち竦んでいる。ナイフを片手に持っているため、さながらヤーコーであ
る。
 「貴様ぁぁぁああぁぁ!」
出た。グラサンお得意のフレーズだ。
 「来るなぁ、なんだお前ら!オレはもう死ぬしかないんだほっといてくれ!」
その男はチワワのように震える声でまさに生気の感じられないフレーズを吐く。
 「貴様ガキがいるのにそんなまねしてんじゃねぇぞ、じゃあ死ねコラ!早く
しろこのチキン野郎が!」
グラサンは事態を悪化しかねないセリフを吐く。
 「お前なんかに言われなくたって死ぬんだ。ほら、ほらぁあぁ!」
そう開き直ったかのようなセリフを吐くと、男は喉仏にナイフの切っ先を当て
る。
 「お父さん!」
サムと女の子が到着し、女の子がサムに抱かれたまま叫ぶ。その瞬間今まで土砂降りであった雨が、急に弱まった時の空模様のように、男の表情が一変、悲しげになる。
 「保健美……ごめんなぁ」
男がフランダースの犬のラストシーンのネロのようなか細い声で女の子の名前を口にする。
 (ぽけみって…まんまじゃねーか…)
とサムは心の中で突っ込む。更に男は続ける。
 「お父さんは、もうお別れだよ…。もうだめなんだ、もう生きていくのが辛いんだ。怖いんだ。」
そう言うと、喉仏に当てたナイフを強く握り締める。
 「誰かが生きるということは、誰かが死ぬということだ。」
ターバンがいつもより目深にターバンを落としながら、うつむき加減で大きめの声を出す。そして続ける。
 「何かをやる際には必ず何かの犠牲がいる。その上に全てのことが成り立っている。人を自由にするために、自分の自由を投げ打つ者がいる。お前が今自分を辛さから解放しようとするために、嘆き悲しむ人がいる。誰かの変わりに死ぬことは良い事とは言い切れないが意味がある。だが自分のために死のうとしているお前はただの肉の塊だよ。」
そう言うとターバンは男に背中を向ける。
 「……」
男は黙り込んでいる。
 「あぁあぁぁ、うぜぇぇえ!こいつのために死ぬのか、自分のために死ぬのか、どっちだ!いいから答えろボケェ!!」
グラサンが女の子を指差しながらキレる。
 「お父…さん。」
女の子が呟くや否や、男はひざから崩れ落ちる。
 「ごめん、お父さん、お前のために死にたいや。」
そう言うと男は建物から降りてくる。
 「お父さん!」
父子は泣きながら抱き合う。それをグラサンはイライラした表情で、ターバン
は落ち着いた表情で、サムは何やら感慨深そうな表情で見守る。

 「ご迷惑をお掛けしました。」
しばらくすると男は三人に頭を下げる。その瞬間、
 「ドゴっ」
鈍い音と共に男が吹っ飛ぶ。そうターバンが一発顔面に食らわせたのだ。
 「肩の分の借り、しっかり返したでしょ。」
そう言うとターバンは来た道へ歩を進める。そしてグラサンも何も言わず続く。
そしてサムも続こうとしたその時、
 「TRFのお兄ちゃん、ありがとう。」
女の子がサムに一言言う。サムは照れくさそうに頭を掻きながら二人の後を追
う。
 この親子と家族はそれ以降、モグラ博士館のように、わだかまりを少しずつ
吐き出していくことだろう。

ペンタゴンへの帰り道、サムが重い口を開く。
「てか何でお前ら見ず知らずのヤツにあそこまでしたんだ?オレには全く理解できねー。」
「てかよ、テメェまだいたのかよ!クソして帰れつったべ!」
グラサンがキレ気味で言う。
 「はぁ?テメェらが女の子おいてさっさ出て行くから来るしかなかったんだろーがよ、この色々眼鏡が!」
サムも負けじとキレる。
 「そーだ、ここでお前を壊れかけのラジカセ同様にしてやっか、コラァ!」
グラサンがサムの胸倉を掴む。
 「上等だコラ!」
サムもグラサンの胸倉を掴む。
 「てか行動に理由なんていらないでしょ。」
ターバンが先ほどのサムの問いに答える。その後グラサンとサムは気が済むま
で殴りあう。

 三人は綱島街道に差し掛かる。
 「…じゃあな。」
サムは一言だけ残し去っていく。そしてグラサン、ターバンはいつも通りペ
ンタゴンへと帰って行く。

 翌日。
「それじゃあ明日来てくれるかな?」
 「いいとも!」
ペンタゴンでは『笑っていいとも』が流れている。それをサングラスというフ
ァクターでタモリにシンパシーを感じたのか、食い入るようにテレビを見るグ
ラサン。そして何やらグラフのやたら書いてある本を読むターバン。とその時、
 「♪寒い夜だから~明日を待ちわびて~、どんな言葉でもいいよ誰か伝えて」
ペンタゴンの外からTRFの名曲が爆音で流れ始める。
 「……。」
グラサンはいいともに見入ったまま無反応である。ターバンはソファーに腰掛けたまま、外の方を見る。
 「♪今日出会ったよなつかしい私と、遠い思い出と近い現実」
音楽はひたすら鳴り続ける。
 「ドンッ」
グラサンがソファの前のガラス机を思いっきり両手で叩き付けながら立ち上がる。
 「クソが!」
そう言うグラサンをターバンは見つめながら微笑を浮かべる。
 「うりぃぃぃぃいぃいいぃ!」
グラサンはジョジョで出てきそう、と言うより頻繁に使われている台詞を叫びながらペンタゴンを飛び出す。そして待ってましたと言わんばかりにターバンもそれに続く。

 「おい、くそガキ!待ちわびてんのはこっちだバカヤロー、ダンカンバカヤロー。」
焼肉交差点では、またもや渋滞ができていて、『麻婆豆腐』と行かした台詞の入
ったデコトラから、運ちゃんが四川風かと思われるような辛口のコメントをし
ている。
 そこにペンタゴンから到着したグラサンとターバンが現れる。
 「サム、貴様ぁぁぁぁあああぁぁぁあ!」
そう叫びながらグラサンは交差点の真ん中へと侵入していき、サムの顔面をお
もクソ殴りつける。そしてグラサンは顔から血を流すサムの胸倉を掴み上げて
言う。
 「テメェわざと同じことやってんじゃねーぞ、ボケェ!次やったら二度といいとも見れない身体にしてやっぞ!」
そう言うとグラサンは交差点から出て行く。グラサンの後に交差点に入ってき
ていたターバンがサムの肩に手を置く。
 「あいつはな、自分が認めたやつのことしか名前で呼ばないんだ、なぁサム。」
そう言うと微笑を浮かべ、ターバンも交差点を後にする。
 「ちょ、待てよ。」
サムがターバンの後姿に向かって言う。
 「殴られっぱなしで納得できねーよ!」
そう言うサムに対しターバンが答える。
 「じゃああいつとの勝負はモノポリーで着けるしかないでしょ、フレグランス木月105号室な。」
そう言うとターバンは去っていく。
 「……。」
サムは無言で二人が去っていく姿を見つめる。
 (名前で…か。)
サムは感慨深そうな顔で立ちつくしている。
 (…てかサムって名前じゃないじゃん!)
そう心の中で突っ込みつつもサムは交差点の真ん中で満足気な表情を浮かべる。

三章  六者協議
 時は戻り現在のペンタゴン。
 「カチッ」
サムは徐にラジカセの音を止める。そしてL字型になっているソファに腰掛ける。サムの隣にはタンク、ブーヤン、L字の二人がけのところにはフィービーとグラサン。そしてサムの向かい、テレビの隣の一人がけのイスにはターバンが座っている。
 「六者協議を始める。」
ターバンが開始の合図を告げるとあたりを重苦しい空気が包む。
 「とりあえずお前が無事で良かったよ!」
タンクが静寂を破り発言する。
 「そうですよーー、サムさん最近無茶ばっかするんですから~。」
ブーヤンも続く。
 「すまない…」
サムがうつむいたまま謝る。
 「お前なぜ最近また始めたんだ?三年前オレやグラサンと出会ってからついこの間まで、昔みたいなアホなことしてなかったでしょ。」
ターバンが本題を切り出す。
 「…。」
サムは黙ったままである。
 「あんたが今死にたいと思ってるとは到底思えないんだけど、私も。」
フィービーが初めて真面目な台詞を口にする。
 「そうだぜ、オレはグラサンやターバン、そしてお前に魅かれてこのペンタゴンの一員になったんだ、お前には生きる意味があったはずだろ!仲間が、お前仲間がいたから変われたって、昔語ってくれたじゃないか!」
タンクが半ば熱い台詞を吐く。
 「…。」
依然としてサムは無言である。
 「お前何か隠してるでしょ。間違いないでしょ。」
ターバンが冷静に聞く。それを聞いたサムは下唇をかみ締める、が何も話そう
としない。その時、グラサンが静かに立ち上がる。
 「おい…」
グラサンはサムに背を向けたまま言う。そしてサムの方向を振り向くと同時に、サングラスをはずし、サムの胸倉を掴む。そして低い声で言う。
 「言え。」
グラサンがそう言うと、サムとグラサンは数秒見つめ合う。サングラスを取ったグラサンの目は、どんな獣でも怯ませてしまうのではないかと思えるほど鋭い。そしてサムが口を開く。
 「お前らには言いたくなかった…」

 「三年前までのオレは毎日のように自分を傷つけたり、死んでもおかしくないようなことを続けていた。例えばターバンやグラサンが知っての通り、交差点で寝てみたりな…。」
サムは重々しく話し始める。
 「あの頃のオレは本当に自暴自棄になっていた。親、兄弟、友達、夢、希望すべてを無くしていた。でもまだ十五くらいまではそれでも生きれた。まだ一つだけ失っていないものがあったから…」
 「その一つってなんだよ?」
サムの言葉にタンクが突っ込む。
 「それは…TRFだった。」
サムが溜めてそう言う。
 「えぇぇぇ!?」
一同が見事なユニゾンで反応する。
 「オレが高校入った位から彼らは曲を出さなくなって、本当に全てを無くしてしまった。お前らはくだらないと言うだろう。でも極限ではそれすら、そんなちっぽけなものだけがオレの救いだったんだ。」
そうサムが続けると、フィービーが口を開く。
 「ちっぽけかもしれないけど、あんたにとってはそうじゃなかったんでしょ。みんなそれ位のもの持ってるわよ。私もちっぽけな存在。」
 「ありがとう。」
フィービーの言葉にサムが静かに返す。そしてサムが続ける。
 「その後、そんな本当に全てを失ってしまって、抜け殻になって四年が経とうとした十九の時だったよ、ターバンとグラサンに出会ったのは。お前らはオレや見ず知らずのやつらのために熱くなってた。正直初めは意味わかんなくて、むしろそういうのキレイ事っていうか、荒んでたオレにとってはすげーウザく感じられた。でもさ、お前らに会った次の日も何故かお前らにまた会いたくなった。その時、ターバンの『行動に理由なんていらない』って言う言葉を思い出してさ。思い切って仲間になってみたよ。」
一同はサムの言葉に聞き入っている。タンク、ブーヤンは頷きながら聞いてい
る。
 「その頃はさ、まだターバンとグラサンとオレだけで、それからタンクやフィービーやブーヤンも仲間になってさ。オレは今でもお前ら仲間がいること、すごい誇りだし、お前らがオレにとっちゃ家族で、生きる意味なのは今でも変わらねーんだ。」
サムはトーンは低いものの熱く語る。
 「じゃあ何でだ?お前生きる意味あんだろ、どうしてこの前みたいなこと!」
タンクがタンクトップから半ばはみ出た胸を熱くして言う。
 「話せ、お前にとってオレらは家族なんでしょ?なら何でも話せ。遠慮とかいらないでしょ。」
ターバンが冷静に言う。
 「…だからだよ。」
サムは徐に言う。
 「だから…お前らがオレにとって大事なやつらだから言えないんだ。お前らを傷つけたくないんだ、巻き添えにしたくないんだ!」
サムは目を潤ませながら怒鳴る。
 「お前、オレらのこと何もわかってないな、何年一緒にいるんだ?」
ターバンが言う。サムは少し驚いた顔でターバンの方を見る。さらにターバン
は続ける。
 「お前が苦しんでるなら、オレら笑ってモノポリーなんてできないでしょ。そう言う不器用な奴らの集まりでしょ、ここは。」
ターバンの言葉を聞き、サムは泣きそうな顔をする。
 「そうだぜ、筋トレ以外何もできない不器用だぜ!」
タンクがガムの宣伝くらい白い歯を見せて微笑みながら言う。
 「そうですよぉー、僕も食うことだけですし。」
ブーヤンも続く。
 「私も可愛さだけだし!」
フィービーが自信満々に言う。
 「えぇぇ?」
フィービーの言葉に一同がまたもやユニゾンする。
 「うるさいっ!」
フィービーがキレる。
 「オレも健さんくらい不器用だ。」
グラサンがボケ気味で言う。が、誰も突っ込まない。
 「…みんな、ありがとな。」
サムは泣いているのか、俯きながら言う。そして更に続ける。
 「話すよ、全て。」
一同は静まり返る。ペンタゴンの外を車が通る音だけが聞こえてくる。
 
「一ヶ月前、木月のミニストップに飯買いに行って店から出た時だった。オレは変なヤーコーに呼び止められたんだ。」

一ヶ月前の木月のミニスットプ。サムが店から出ると、濃い色の、少し茶色
の入ったサングラスに、セカンドバッグを持ち、ストライプのスーツを着た、
見るからにヤーコー風の男がサムに近寄ってくる。
 「サムくんだよね?」
男はいきなり話しかける。
 「ああ?」
サムはメンチを切るような顔で振り返る。
 (やべー、ヤーコーじゃん。)
振り返った瞬間サムは焦る。
 「テメェなんだその口の聞き方はよぉ。」
ヤーコーが半ギレする。
 「す、すいません。なんすか?」
サムはもちろん下手に出る。
 「頼みたいことがあるんだよねー、うちの事務所来てくれるかな、ね?」
ヤーコーは絶対に断れなそうな言い方でサムに迫る。
 「いや、オレ何もしてないんすけど。頼みたいことってなんすか?それを先に聞かせて下さいよ。」
サムは若干ビビりながら言う。
 「いいから来いやコラ!」
ヤーコーはそう言うと、サムの腹に一発食らわせ、もう一人のバタービーン
のような体格のいい男を呼び、サムを無理やり車へと押し込む。
 サムが気付くとヤーコーの事務所らしきところに連れ込まれている。
 「お目覚めですか、サムさん。」
サムの前にたたずむ、頬に絶対刃物で切られただろう跡のある強面のおっさ
んが語りかける。
 サムは固唾を呑む。
 「あのね、サムくんってすごい死にたがってるらしいじゃない?最近はそうでもないのかな?でも、死にたがってたよね。」
男はニヤニヤしながら話しかけてくる。
 「…。」
サムは何も言うことができない。男は続ける。
 「あのねー、うちのバカがさ、ヘマやちゃって人殺しちゃったのよ。でねその罪をさー、サムくんがかぶってさー、死んでくれるとうちらは助かるんだよね。やってくれるよね?」
そう言う男に対し、サムは遂に口を開く。
 「そんな、そんなことできるわけないじゃないですか!」
サムは叫ぶ。
 「あれれれれれ~、おかしいな?何でかな?やっぱ仲間ができたからかな?」
 「!?」
男の言葉にサムの顔色が変わる。
 「何か最近仲間できたんだってね。じゃあ仲間の方に頼もうかな。てかガキの仲良しごっこ、おじさんたち大嫌いだからみんな痛めつけちゃおうか?」
男は嫌味たらしく言う。
 「ちょ、そんなことさせねーぞ!」
サムがキレる。
 「ああ?じゃあテメェがやるんだな?」
 「…。」

 「…ってことがあった。」
サムは一月前の出来事を語る。
 「それでやるって言ったのか?」
ターバンが聞く。サムはそれに黙って頷く。
 「昔の…オレの責任だ…」
サムは小さな声で言う。とその時、
 「バカヤロー!テメェは何一人で悲劇のヒーローやってんだボケェ!そういうところがいけ好かねぇんだよクソヤロー!」
グラサンは怒鳴り散らす。
 「で、そのヤーコーの事務所ってどこにあったんだ?」
タンクが聞く。
 「川崎駅の銀龍街…って何で場所なん…!?」
サムが答えた瞬間、グラサン、タンク、フィービー、ブーヤンはペンタゴン
から走り出ていく。
 「おい、お前らマジに危ないって!ヤバイって!」
そう出ていくメンバーを呼び止めようとするも誰も聞いていない。
 「行動に理由なんていらないでしょ。」
まだ部屋にいたターバンは笑顔でそうサムに言うと、すかさず出て行く。
 「…あいつら。」
サムはそう呟くと彼らの後を追って部屋を出て行く。

四章  危機、それから
 グラサン、タンク、ブーヤン、フィービーは漆手黒川通りを川崎方面に向
かって猛烈な勢いで走っている。そして少し後ろには追いついてきたターバ
ンの姿も見える。そのまた後ろにはラジカセを担いで走るサムの姿。実際川
崎までならタクシーを使った方が断然早いが、こういった時は走るのが定番
である。
 「うおーーーーーーーーーーーー!」
タンクは先頭を雄たけびをあげながら走る。
 「追いついたでしょ。」
ものの二、三分でターバンが先頭のタンクに追いつく。そして気がつくとブ
ーヤンは失速し始めている。
 「はぁ、はぁ、ごふっ。」
ブーヤンは辛そうである。
 「おい、お前無理するな、大丈夫だから、もう十分だよ、ありがとな。」
失速したブーヤンに追いついた、加速したサムがそう話しかける。
 「死んでも川崎まで走り抜きますよぉーー、はぁ、はぁ。」
ブーヤンのハートはその皮下脂肪よりも厚くなっている。そしてよくよく見
るとフィービーはキックボードを使っている。彼女の金髪が風に靡き、そこ
だけ見たらニューヨークかと思わせられる。
 「キックボード、捨てなくて良かったわ!」
フィービーがグラサンの横を走りながら言う。
 「お前、キックボードって、お前だけ見たらアメリカンな風景だな…って欧米か!」
グラサンがタカアンドトシのネタをパクリつつ突っ込む。
 川崎までの道のりも半分を過ぎようとした頃、サムが担いでいるラジカセ
の再生ボタンを押す。
 「♪Yeh Yeh Yeh Yeh、Wow Wow Wow Wow 、Yeh Yeh Yeh Yeh、Wow Wow Wow Wow 」
予想通りTRFの名曲が流れ始める。
 「俄然テンション上がってきたぜ!」
タンクが振り返り、サムに向かって親指を立てる。
 「♪survival Dance survival Dance Trial Dance」
当にこれからサバイバルに行こうという彼らには持ってこいの曲である。

 「ここがサムの言ってた事務所だな…」
タンクとターバンが先頭で到着するや否や、タンクがそう漏らす。
 「日万会川崎支部、こりゃ日本で有数の組織ですな。」
ターバンが小さな声で呟く。そして少し遅れてグラサン、サム、フィービーが到着する。ブーヤンはまだ着いていないが…。
 「来ちまったぜ…。」
さすがのグラサンも多少ビビり気味で呟く。
 「今さらビビってらんないわよ、突入せよ!日万会事件!!」
フィービーが何やら楽しげに叫ぶ。
 「さすがフィービー、肝が座ってるな。よし、行くしかないっしょ。」
ターバンが言う。
 「よっしゃ、うりぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」
ターバンの言葉と共に、グラサンは例のフレーズを発し中に突入する。そして他の面々もグラサンに続く。

 「ドカッ」
グラサンが事務所のドアを蹴破る。すると中にはサングラスをかけ、黒のダブルのスーツを着、左手には部屋の中なのにセカンドバッグを持ったヤーコーが10人近くいる。
 「なんだ!?貴様ら!殺されてーのか!」
ヤーコーAが怒鳴る。
 「うるせぇ!」
グラサンがAを殴りつける。その瞬間全員が五人目掛けて襲いかかってくる。激しい死闘が始まり、全員血だらけになりながら闘う。
 「てめーら、サムを道具にするならオレらをやってからにしろ、コラァ!」
グラサンはサングラスにひびを入れられながらも叫ぶ。その直後、フィービーが捕まる。
 「おいおい、こいつがどうなってもいいのかな?お兄ちゃんたち。」
事務所の奥から例の『頬に絶対刃物で切られたであろう傷跡のある男』が、日本刀を持って現れる。
 「あーあ、サムくん、おいたが過ぎちゃいましたね。」
その男は日本刀を軽く振り回しながらフィービーの方へと行く。
 「意外と可愛いのね、お譲ちゃん。オレの愛人でもやるか?」
男はフィービーの胸元に日本刀を突きつけながら、そう言う。
 「やめろ!」
ターバンがヤーコーB、Cに羽交い絞めにされつつ、頭から流れ出た血で片目を塞がれつつ、叫ぶ。
 「クソ…」
白いタンクトップを赤く染めたタンクも嘆く。
 「畜生が…」
グラサンもどうすることもできずにヤーコーDに捕まる。
 「やめてくれ…女を人質に取るとは卑怯だ!オレが、お前らに必要なのはオレだろ?」
サムが言う。すると男が言葉を返してくる。
 「卑怯なのはサムくん、テメェだよなぁ?約束守れなかったんだから、仲間が死んでもいいんだろぉ、ああ?」
男はこれでもかと言うくらい嫌味な顔をする。
 「とりあえずこいつら繋げや!」
そう男が命令すると、ヤーコーAからJは五人を縛り上げる。そして彼らは一
列に並ばされる。
 「さーて、誰から行こうか。このサングラスのやつは気に入らねぇ目つきだし、このターバンは偉そうで気に入らない、このタンクトップははみ出た乳が気に入らない、このブロンドの女は愛らしくて殺してやりたくなるな。じゃあサムくん、キミ一人目選んでいいよ。一人殺りゃ、考えも変わるでしょ?」
男は嘗てポケモンのテレビで子供たちが気持ち悪くなった事件の時の映像くら
い、光っている日本刀を手に叩きつけパシパシ言わせつつ語る。
 「…。」
サムは何も答えない。
 「直ぐには決められないか、そうだよね、な・か・ま、だもんね。ハハ。三分あげるからゆっくり考えなさい。オレはその間にキューピー三分クッキングでも見てるよ、ぶわっはっはっは。」
男はつまらないギャグを交えつつそう言う。
 「みんな…オレのせいですまん。」
サムはみんなに申し訳なさそうに言う。
 「大丈夫だ、お前のせいじゃないよ。」
タンクが言う。
 「そうよ、もう十分浮世は楽しんだわ。」
そうフィービーが言う。
 「クソが!」
グラサンは吐き捨てる。
 「まだ何か策があるはずでしょ。あきらめられないわな。」
ターバンもいつになく焦った表情をしつつも、冷静な台詞を吐く。
そして男が口を開く。
 「三分経過しましたー。それではサムくん、ご指名をどうぞ。」
 「…テメェが死ね。」
サムが男にメンチを切りつつ吐き捨てる。
 「誰に口聞いてんじゃ、われぇ!テメェから殺したるわ!」
男はすごい剣幕で怒り、サムめがけて日本刀を振り上げる。
 (だめだ…)
ペンタゴン面々はそう諦め目をそむける。と、その瞬間。
 「おい、コラぁ!」
壊れた入り口のドアのところにブーヤンが、いつもとは違う強い口調と共に登場する。

五章  ギャップ
 「おい、やめろ。」
登場したブーヤンは普段とは全く異なるオーラを放つ。
 「ああ?誰だ!」
男はそう言い、ドアの方を振り返る。その瞬間男の顔から血の気が一気に引いていく。
 (なんだ?どうした?)
ペンタゴンの面々は不思議そうにこの状況を見る。男は震え始めている。
 「山崎だよなぁ、サムさんから話聞いたときまさかとは思ったが、やっぱり貴様か。」
ブーヤンはその男を山崎と呼ぶ。男は日本刀を落とし、地に這い蹲る。
 「も、申し訳ございません!ままま、まさかサムが、ブ、ブブブブーヤン坊ちゃまの仲間とは知らなかったんです…」
男は必死である。
 「ブーヤン坊ちゃま?え?」
タンクは唖然としている。またグラサン、ターバン、フィービー、サムも全く
事態が飲み込めないという表情をしている。
 「ドゴっ」
ブーヤンが山崎と呼ばれる男の顔面に一発蹴りを入れる。
 「サム『さん』だろーが!呼び捨ててんじゃねーぞ、どカスが!」
ブーヤンは閻魔のごとく厳つい顔で言う。
 「申し訳ございません!」
男は必死に謝る。
 「わしじゃなくてサムさんに謝らんかい、ボケェ!」
ブーヤンは山崎と呼ばれる男の頭を足で踏みつけながら言う。
 「サムさん、申し訳ございませんでした。皆さんも大変失礼いたしました。」
男は半べそをかきながら面々に頭を下げる。
 「てめーみたいのがいると日万会のレベルが下がんだよ。テメェのケツくらいテメェで拭けや。仁義の尽くせねぇやつはいらねーよ、タコ!」
ブーヤンは最後にそう吐き捨てると、面々の方へと来る。
 「みなさーーーん、すいませんでした。僕が遅かったからこんなになっちゃって。サムさーーーん、本当にうちのバカのせいですいませんでしたぁ。」
いつものブーヤンに戻りそう言う。
 「いや、大丈夫だ…」
サムがあっけに取られつつも答える。
 「お前、会長の息子なのか?」
タンクが聞く。
 「はい、隠しててすいませんでしたぁー。」
ブーヤンはそう答える。
 「そういう事は早く言えよ…死ぬかと思っただろ。」
グラサンが胸を撫で下ろしつつ言う。
 「あんた…意外性に富んでるわ。」
フィービーも言う。
 「とりあえず、助かったよブーヤン。サンキューな!」
ターバンもお礼を言う。
 「じゃあ、帰りましょー、みなさん。」
ブーヤンはそう言うと面々の縄を解く。
 帰りがけにグラサンは事務所のヤーコー全員をボコボコにして出て行く。
 「マジ、最高の気分だぜ!!」
と言う台詞を残して。

 ペンタゴンへの帰り道。
 「ところでさ、お前日万会の会長の息子なのに、なんでオレらみたいなパンピーと一緒にいるんだ?」
タンクがブーヤンに尋ねる。
 「好きだからですよぉーーー、決まってるじゃないですかーー。」
ブーヤンは満面の笑みを浮かべて答える。
 「そ、そうか。」
タンクはあまり納得できないと言った表情であるが、それ以上は突っ込まない。
 「ま、ブーヤンはただのブーチャンでは無かったってことでしょ。」
ターバンがそう言うと、一同は笑う。サムの顔にも満面の笑みが浮かんでいる。
そしてサムはラジカセを再生する。
 「♪no no cry more 泣かない、思い出、作ったら~、この夏こそは、この夜こそは、この街きっと見つかる~」
冬なのに夏の曲を流したという点を除いて、サムの気持ちを表しているかのよ
うにTRFの名曲が夜の元住吉の街にこだまする。

六章  ギンザ女
 サム騒動が終焉を迎えて数週間が経った頃。
「めちゃめちゃ美味いですね~~!」
浅草名物雷おこしを、ボッロボロこぼしながらブーヤンが言う。そうブーヤン
とタンクは浅草観光の帰りである。
 「確かに、これはやばいよな!それにしてもブーヤンこぼしすぎだって、お前床中おこしだらけじゃねーか、アハハハハハ!」
タンクは横に座っているブーヤンを見ながら、手を叩いて爆笑する。そう彼ら
は地下鉄銀座線に乗っているのだ。他の乗客は冬なのにタンクトップの青年と、
雷おこしをこぼしまくっているブーヤンを、女形の化粧くらい白すぎる目で見
ている。
 タンクが大笑いしている頃、電車は京橋に着く。
 「カツっ」
と、その時タンクの脚にカバンがぶつかる。タンクはブーヤンの方を向いてい
た顔をカバンがあたった方に向ける。
 「ふんっ」
そこには見るからに高そうな服を着たコンサバなお姉さまが、ツンとした表情
で、ツンとした台詞を吐き、通り過ぎる。タンクはムカっとした表情でその女
を見つめる。
 「普通謝るでしょ、今の当たり方には悪意があったぜ?」
タンクは数メートル先に座ったコンサバ女に聞こえるか聞こえないかくらいの
声で、ブーヤンに話しかける。
 「まあ、いいじゃないですか。きっとたまたまっすよー。」
ブーヤンがタンクをなだめる。しかしタンクは終始コンサバ女にガンを飛ばし
続ける。
 「銀座~、銀座。」
電車が銀座に着くと、その女は慌てて降りていく。
 「クソー、あのギンザ女ムカついたわ~。」
タンクが嘆く。
 「あれ、何か落ちてますよ~。」
ブーヤンがギンザ女が座っていた座席の方を見て言う。
 「え?」
タンクも座席の方に目をやる。
 「財布?」
タンクはその落し物に近寄り持ち上げる。
 「きっとあの女のっすね~、タンクさんどうします?……」
ブーヤンがそう聞き財布からタンクに目を移すや否や、タンクは降り口に向か
い始める。
 「ドアが閉まります、閉まるドアにご注意下さい。」
タンクが降りようとする寸前に電車のドアが閉まりきる。
 次の瞬間、
 「うおぉぉぉおおぉ」
筋トレ中に最後の追い込みをかけた時のような雄たけびと同時に、タンクは電
車のドアをこじ開ける。周囲の乗客はさぞ白い目で、さっきの女形の化粧、い
や連想心理学で「人間は生まれながらにして白紙の状態である」というところ
の生まれた状態の人間よりも真っ白な目で見ているだろう。しかし、意外にも
ドア付近の乗客たちは感心している。そして少し動き出した電車の開いたドア
からタンクが颯爽と飛び出す。
 「タンクさん、ぐぅれいとぉー!」
そう満面の笑顔で叫びながらブーヤンも続く。
 「コラぁ、キミたち何をしてるんだ!」
そうバカボンの本官さんの様に片手を挙げて怒鳴る駅員を尻目に、二人はギン
ザ女が行ったであろう方角へと走り去る。

 「だめだ、出口が多すぎてどこ行ったかわからねぇ……」
改札を出たところでタンクが立ち止まり漏らす。
 「はぁはぁ、そうですねギンザ女の得体も知れないですしね……」
そうブーヤンが言った次の瞬間、二人は顔を見合わせる。
 「それだ!!」
二人は同時に言葉を発する。
 「人として良くないかもしれないけど財布に分かりそうなもの入ってるだろうな……。」
正義感の強いタンクは気が引けると言った感じで言う。
 「しょうがないっすよ、見ちゃいましょーよ~。」
ブーヤンはタンクの手に握られているGUCCIの長財布に目をやる。
 「よし……、開けるぞ、開けちゃうぞ……」
タンクはゆっくりとその財布を開こうとする。だが中々開くことができない。
 「……警察に届けましょうか。」
ブーヤンはそんなタンクの気持ちを察して提案する。
 「そうだな、それがいい。」
タンクは財布を開こうとした格好のままそう答える。
 「やっぱり人の物を勝手に見ちゃいけないよな!な?」
交番への道中、何度となくタンクはブーヤンに聞く。
 「そりゃそうですよ~、やっぱりタンクさんはパンピーとは違いますね、男です、いや漢です!正義の象徴です!!」
その度にブーヤンはタンクをたたえる、もちろん雷おこしを片手に。そうこう
しているうちに二人は交番に到着する。

 「あの、財布拾ったんだけど。」
交番に入るや否やタンクが財布を警官に突き出す。机に腰掛け、何やら書き物
をしていた警官はその声に気づき顔を上げる。
 「はいはい。」
そう言うと警官は一度タンクと財布を見たあと、目を丸くしてタンクを二度見
する。
 「ええええ~!!?」
どうやら、というより案の定冬なのにタンクトップを来たこの男に驚いている
らしい。
 「キミ寒くないの?」
警官がタンクに尋ねる。
 「冬だから寒いに決まってんじゃん。何言ってんのよ?」
タンクが素で返す。そう、タンクにとってタンクトップはユニフォームである
ため、そこに突っ込まれていることさえ気付いていないのだ。
 「……あ、財布ね。」
警官はしばらく止まったあと我に返る。
 「電車ん中で変なムカツク女が落としてったんだよ、後は頼むよオマワリさん。」
タンクはそれだけ言い残し交番を出ようとする。
 「ちょっと待って、連絡先を教えといてくれるかな?持ち主がお礼したいって言うケースもあるからさ。」
警官はそう言うと用紙とペンを取り出す。
 「オレはいーよ、お礼なんてむしろお断りだ。」
そう言い放つとタンクは外に出る。
 「じゃあとりあえずオレの連絡先書いときますね。」
そう言うとブーヤンは自分の連絡先を一筆書きで書く。
 「そんじゃオマワリの兄ちゃんよろしく。」
ブーヤンもそう言い残すと去っていく。
 (変わったやつらだったな~)
警官はしばらくの間呆然と入り口のドアを見つめ続ける。

 「よし、どうせだからデパートとやらを見学して帰ろう。」
交番から出たタンクは少年のような瞳でブーヤンに語りかける。
 「賛成です!旨いもんありそうですしね!」
ブーヤンも食料品売場限定で同意する。さて二人はどこのデパートに行くのだ
ろう。そう、銀座といえばもちろん三越だ。
 「ここが三越か、なんで三越っていうか知ってるか?ブーヤン。」
タンクが得意気に語りかける。
 「え?なんでなんですか~?全く気にしたことないっすよ~。」
ブーヤンも興味津々丸である。
 「実はな、三越って始めは違う場所にあったんだけど三回引越しして四度目の正直でここになったんだってよ!」
タンクがしたり顔で言う。
 「すごいっすね、タンクさんよく知ってますね~、薀蓄王って呼んじゃいますよ?」
 「信じた?嘘だよーん。」
 「え~そりゃないっすよ、四度目の正直ってか一度目から嘘っすか~!」
二人は楽しげにそんなやり取りをする。気付くと三越地下一階食料品売場に着
いている。言わずもがな、タンクトップ目立ちまくりである。
 「タンクさん、雷おこし発見です!」
ブーヤンが嬉しそうに手を挙げて叫ぶ。
 「え?浅草じゃなくても売ってるのか、何か悲しいな……ってお前また食うんかい!!」
 「ターバンさんたちの分も食べちゃったんで買っていきましょうよ~。」
 「そうだな、グラサンがまたキレ兼ねないしな!」
そう二人が話していると後ろの方で殺気がする。
 「あれ?ブーヤン坊ちゃまじゃないですか?」
その声に反応し、二人が振り返るとそこには身長2メートルはあるかと思われ
るスキンヘッドの大男が立っている。
 「おう、東国原じゃねーか!久しぶりだなウドハゲ。」
ブーヤンがヤーコーモードで見たままのあだ名で呼ぶ。
 「こんなところで何してるんですか?坊ちゃま。」
ウドハゲは不思議そうに聞く。
 「テメェこの食べ物の量見てワシにする質問じゃめぇべや!」
ブーヤンは何故かキレ気味で食料品売場全体を指差しながら言う。そのブーヤ
ンのしゃべり方にまだ馴れていないタンクは顔と鍛え抜かれた鋼、いや鋼鉄の
筋肉を強張らせる。
 「ですよね、アハハハハハ。」
ウドハゲは前回の山﨑のように謝るのかと思いきや、低い声で爆笑する。
 「お前らしいっちゃらしいけどな、ブハハハハっ!」
ブーヤンもまるで幼児をあやす幼稚園の園長ばりに快活に笑う。
 「……。」
タンクは無言のままタンクトップから完全にはみ出た僧坊筋を盛り上がらせる。
 「それはそうと坊ちゃま、銀座には良いキャバクラがあるんですよ!」
そう言うとウドハゲは派手な、まるでディズニーランドのエレクトリカルパレ
ードくらい派手な、いやそれ以上志茂田影樹の髪の毛くらい派手な女の子がい
っぱい載ったキャバクラのチラシをブーヤンとタンクに向けて開く。
 「お前、ワシが女より飯に興味あること知ってるべな~……ん?」
ブーヤンは途中で眉をしかめる。
 「どうした?ブーヤン。」
タンクは不思議そうに尋ねる。
 「これってさっきのギンザ女に似てません?」
ブーヤンはチラシを指差しながらタンクの顔を見る。
 「どれ~……あーこれさっきのクソムカツク女だな。こんな店では働くなんて如何わしいぜ、やっぱロクな女じゃなかったんだよ。」
タンクは夏の夜に寝ているとき蚊の羽音で目覚めてしまったときのように嫌な
顔をする。
 「ホントっすよね、全く最悪な女っすね。おいウドハゲこんなもん早くしまえや。」
ブーヤンはいつも通りタンクに同調し、タンクの気持ちを察する。
 「すいません、坊ちゃま。ならここもお勧めですよ、どうでしょう?」
ウドハゲは今度はカフェのチラシを差し出す。とその瞬間ブーヤンの目の色が
変わる。
 「な、な、な、なんと旨そうじゃねーか!!!」
どうやらブーヤンは生クリームの乗ったコーヒーに目を奪われたらしい。おそ
らく口にすれば舌も奪われることだろう。まさに強奪。
 「サンキュー、ウドハゲ!ナーイスチラシ!」
ブーヤンは全てカタカナで返すほど興奮し喜んでいる。
 「喜んでもらえて光栄っす。じゃ私は仕事があるんでいきますわ。」
そう言うとウドハゲは明かりがこうこうと着いたデパートから、闇の彼方へと
去っていく。そう闇の。
ブーヤンは笑顔でそのチラシを見たまま止まっている。
 「ブーヤン、もう帰るぞ。ペンタゴンでモノポリーの第35代目手付け式があるんだからよ!」
タンクが時計を見ながらブーヤンを我に返す。
 「お願いします、このカフェだけは行かせてください。グラサンさんには僕から言っておきますんで。」
ブーヤンは必死である。
 「しょうがねーな、そんな行きたいなら行くか、グラサンのチョーパンと引き換えに!」
 「タンクさん、ぐぅれぇいとぉ!!」

 「いやー最高です、コイサーっす!味のIT革命どころか味の裏縦社会っす!」
ブーヤンは口の周りに生クリームをつけてしゃべる、その姿は当に板垣退助だ。
誰かに狙われないかと不安になってしまう。
 「裏縦社会?そのこころは?」
タンクが尋ねる。
 「ブラックのコーヒーの上に生クリームという脂肪が乗っている様が、ダークな組織の上に君臨する脂肪肝のオレにそっくりっていうことですよ~!」
ブーヤンは嬉しそうに言う。
 「当にブラックジョークだな、しかも上手いのかどうかもよくわからんし。」
 「いやー旨いですよ!。」
 「そっちのうまいかよ!!」
タンクは呆れ笑顔でツッコむ。とその時ブーヤンのケータイが鳴る。
 「はい、もしもし?」
ブーヤンがケータイに出る。
 「あ、もしもし?佐藤さんの携帯電話でよろしいですかね?」
実はブーヤンの苗字は佐藤なのである。
 「そうだけど、誰だ?」
 「こちら銀座四丁目交番なんですが、先ほど届けてもらった財布の持ち主の方が現れまして、拾っていただいたお礼をしたいとのことなんですよ。」
 「そうなの?今近くにいるからすぐ行くわ。食べ物でよろしくって言っといてや。」
そう言い残すとブーヤンは電話を切る。
 「どうした?」
話の内容を全く知らないタンクは尋ねる。
 「それがですね~、あの財布の女が今交番にいるらしーんすよ、で、礼がしたいらしーですよ。」
 「取りに来たか、まあ一件落着だな。礼とか期待してやったわけじゃねーからいいわ。それにあのクソムカツクギンザ女にも二度と会いたくないしな。」
タンクはクールに言う。
 「いいじゃないですか、せっかく近くにいるんだし行きましょーよ。行ったらあの女もしおらしくお礼言ってきますって!」
ブーヤンはどうしても行きたいらしくそう言う。
 「……ってお前さっき食べ物がどうとか……そう言うことね。」
タンクはまたまた呆れ顔で言う。
 「善は急げです、行きますよタンクさん。」
いつもは後から着いていくタイプのブーヤンが、ドラゴンボールでフリーザが
ザーボンと話す時のような態度で仕切る。
 「わかったよ、行くよ、行きゃいいんだろ。」
タンクは少し投げやりな感じで席を立つ。

 「よかった……。」
交番ではギンザ女がしおらしく財布を摩っている。その光景をオマワリは笑顔
で見つめている。そしてギンザ女は口を開く。
 「拾っていただいた方は来ていただけるんですよね?」
 「まだ近くにいたみたいだから来るって言ってたよ、良かったね。」
オマワリが優しく言う。
 「随分大事なものが入ってるみたいだね?お金とかカード以外の何かが。」
オマワリは必要以上にしおらしく財布を摩る姿を見て尋ねる。
 「ええ、ちょっと……。」
と、次の瞬間入り口から冬の乾いた風が入ってくる。
 「来たよ。」
オマワリがそう言うと、ギンザ女は入り口の方を振り返る。
 「あっ!……」
入り口に立つタンクとブーヤンを見るなりギンザ女は驚いたような表情で口を
開く。数秒間時が止まった後、オマワリが言う。
 「彼らがキミの財布を拾ってくれたんだよ。」
 「ああ、あの時の……。」
ギンザ女は数時間前を思い出しそう言う。
 「覚えてたか、そりゃそうだよな人にカバンぶつけたもんな!忘れられても困るわ!」
タンクが半ばキレ気味で言う。
 「はぁ?あんたのその可笑しな、バカみたいな格好を一度見れば忘れたくても忘れられないわ!変な格好して頭おかしいんじゃないの?」
ギンザ女は凄く嫌そうな顔をしながら言い放つ。女の変わりっぷりにオマワリ
は唖然としている。
 「おいおいおい、財布拾ってやったのにそれはないんじゃないかな?マジで腹立つ。オレのことはどうでもいい、ただタンクトップを馬鹿にすることだけはゼッテーに許さねぇ!」
タンクが意味不明の熱い台詞を吐く。当に一触即発の空気が流れる。
 「まあまあ、タンクさん落ち着いて下さい。とりあえずお礼だけでもしてもらおうか、お嬢さん。」
ブーヤンが冷静に言う。
 「どうせお礼目当てなんでしょ、私の財布の中まで散々覗いたんでしょ、結局その程度よね下衆なヤツら。お礼ね、お礼が欲しいのね?」
ギンザ女は呆れたといった感じでそう言い放つ。
 「テメェ!!」
タンクが叫び前に出ようとした瞬間、ブーヤンがタンクを抑え冷静に言う。
 「そう、お礼が欲しいんですよ。」
それを聞くとギンザ女は先ほどの財布から一万円札を二枚取り出し、交番の机
の上に置く。
 「これでいいわね。とりあえずお礼は言っておくわ。ありがと。それじゃ。」
そう淡々と言うとギンザ女は腕時計をチラっと見て、交番を出て行く。
 「コノヤロ、おい待てコラッ!」
タンクは顔を真っ赤にして怒るが、ブーヤンが抑える。
 「タンクさん落ち着いてください。仕方ないです。世の中ああいう最悪な女もいますよ。とりあえずお金だけでももらっておきましょう。」
ブーヤンが冷静に言う。
 「ブーヤン、そんな金もらうことねぇ。そいうことじゃないだろ!ホント腹立つ……てか呆れるわ、チクショー。」
タンクが悲しげな顔で言う。
 「そうですね、もう行きましょう。オマワリの兄ちゃん、この金もらっときな。」
ブーヤンはそういい残しタンクと共に交番を出る。調度二人が外に出ると、夕
方五時のチャイムが空に響き渡っている。
 (あのタンクトップの兄ちゃん漢だなぁ。)
オマワリはタンクの後姿、いや後背筋を見ながら呆然と立ち尽くす。

 「うりぃぃぃぃぃぃ!あいつら遅せーぞ、クソがっ!」
ペンタゴンではグラサンが脚がミシンになってしまったかのように貧乏揺すり
をしながらキレまくっている。
 「なんか、あるんでしょ。タンクが遅れるくらいだから。」
いつも通り難しそうな本を読みながらターバンが冷静に言う。
 「そうね、あの二人だから。気長に待ちましょ!」
フィービーもケータイ電話を弄くりながら言う。
 「♪……」
ヘッドホンをしてTRFの名曲に聴き入っているサムは、グラサンの表情を無
言で見て頷いている。
 「35代目が早く出たいって言ってるぜ、クソっ!」
グラサンがテーブルの上にある新品のモノポリーの箱を揺すりながら言う。
 「にしても、もう35代目なのね。あと一代でオスマン帝国に並ぶわ、すごい!」
フィービーが楽しそうにグラサンの言葉に返す。
 「そりゃそうだぜ、オレが使ってるんだからオスマンなんて目じゃねぇんだよ!100代までいかせるぜ!」
帝国という言葉に気を良くしたグラサンは嬉しそうに言う。
 「ははは。まあ今まで色々な伝説があったからな。グラサンがキレて壊したり、キレて壊したり、壊したり。」
ターバンが微笑みを浮かべながら言う。
 「いいんだよ!物事は形が無くなって初めて伝説になったりするんだからよ!」
グラサンがやや開き直りつつ言う。
 「それぐらいモノポリーに真剣だってことで。良い事いいこと。」
ターバンもグラサンを軽くなだめる。
 「ピッ。」
サムが突然ステレオの電源を切り言う。
 「おかえりだ。」
その瞬間グラサンがペンタゴンの入り口に向かってダッシュする。
 「わりぃ、遅くな……!?」
タンクが途中まで言いかけたところでグラサンのチョーパンが直撃する。
 「うりぃぃぃぃぃいいぃ!てめーら遅せぇんだよ!」
鼻血を吹きながら吹っ飛ぶタンクの後ろから現れたブーヤンもグラサンのチョ
ーパンを喰らう。
 「す、すいません。色々ありまして。」
ブーヤンは鼻頭を押さえながら言う。
 「うっし、手付け式始めっぞ!」
気が済んだグラサンはモノポリーの前の席に座りつつそう言う。
 「たまらない洗礼だぜ。」
タンクは苦笑いで漏らす。ターバン、サム、フィービーも微笑みながらその光
景を見ている。

 手付け式も終わり、面々はモノポリーを満喫しつつ話している。
 「でひどかったんすよ~そのギンザ女がもう最悪でして。」
ブーヤンが銀座での出来事を話している。
 「それは無いわな、そりゃタンクもキレるだろうなぁ。」
ターバンが同調する。
 「私ならそのギンザ女のケツ蹴り上げて市中引き回しにしてるわね。」
フィービーが笑顔でやんちゃな台詞を言う。
 「オレもムカつくけど金はもらっちゃうな~、でCD買う!」
サムがそう言うと一同が例の如くユニゾンする。
 「またCDかよっ!!」
一同は笑う。しかしタンクは浮かない表情をしている。
 「どうした?タンク。もうギンザ女の話なんて笑い話にしちまおーぜ!」
グラサンがそんなタンクに気が付き声をかける。
 「いや、あの態度は純粋に許せねぇ。直接人の道を教えてやる!」
タンクがイライラした表情でいきり立つ。
 「やめとけって、またイライラさせられんのがオチだって!!」
グラサンがタンクをなだめる。
 「そうですよ~、あの様子じゃいくら言っても無理ですって。」
ブーヤンもそう言う。
 「まあ、お前が気が済むようにしたらいいんじゃないか。どっちにしてもお前の正義が黙ってないんだろうからね。」
ターバンが他の二人とは違う意見を言う。
 「またギンザ行くなら私もついていくわ、マダムになりたい!」
フィービーが遊び心満載で発言する。
 「そんなお前にはこれだ。」
サムはそう言うとステレオのスイッチを入れ音楽をかける。
 「♪掴んだ拳を使えずに言葉をなくしてないかい 傷つけられたら牙をむけ自分を無くさぬために 今から一緒にこれから一緒に殴りにいこぉかー」
そうチャゲアスの名曲が流れるとタンクが口を開く。
 「俄然テンション上がってきたぜサム、一発かましたるわ!とその前に……90年代か!!」
最後にタンクがツッコミを付け加えると一同は笑う。
 「で、雷おこしは?」
グラサンが笑顔で尋ねる。
 「!?」
タンクとブーヤンはバツの悪そうな顔で見詰め合う。その二人を見たグラサン
が叫ぶ。
 「うりぃぃぃいいいいいぃぃいいぃいぃぃいいぃいぃいいいい!!!!!」

七章  表と裏
 翌日の夕方。タンクとフィービーは銀座に向かう日比谷線に乗っている。
 「銀座なんて久しぶりで楽しみ!マダムたちと仲良くなれるかしら?」
フィービーはウキウキしながらタンクに話しかける。
 「なれるなれる……ってかそれ目的?」
タンクは適当に返事を返した後突っ込む。
 「そう、あとキャバクラにも行ってみたいんだもん。いい機会だと思って。」
フィービーはキャバクラに興味津々である。
 「そか、オレはあれだけど、フィービーは銀座満喫してくれ。」
タンクは低いトーンで言う。
 「低いわね、あんたらしくないんじゃない?その筋肉の厚さはこころの熱さでしょ?パッションパッション!!」
フィービーはパッション屋良の真似をしながら言う。周りの乗客はそんな二人
に大注目である。
 「何見てんのよ、サーカスじゃないんだよ!」
フィービーが乗客にキレると、乗客たちは目をそらす。タンクはフィービーお
構い無しに窓の外の景色を見ている。地下鉄の窓から。
 「まもなく銀座、銀座です。」
そうこうしているうちに銀座へと到着する。

 「着いたわね~、何か歩いてる人も小奇麗な感じ!」
フィービーは銀座の街並みを見回しながら言う。
 「そうだな、何度来てもオレには合わない街だぜ。」
タンクも呟く。
 「それはそうと、そのギンザ女の務め先はどこにあるの?」
フィービーがタンクに尋ねる。
 「えーっとね……ってか知らねーや!」
タンクは少し考えた挙句あっさりと言う。
 「そっか、知らないんだ……え~!?知らないのに来たの?」
フィービーが唖然とする。
 「すまん。」
タンクは謝る。
 「まさにパッションね、そうこなっくっちゃ!」
フィービーはむしろ嬉しそうである。
 「じゃあキャバクラとやらを一軒一軒探してくしかないわね。」
フィービーは更に嬉しそうである。
 「だな、行くしかねぇ!」
そう言うとタンクとフィービーは探し始める。
 しばらく歩いたところで一軒目のお店を発見。『clubポンパドゥールfuzin』
である。いかにも80年代チックな名前の店である。
 「えーと、入り口は……」
タンクが入り口を探す。するとフィービーが叫び声を上げる。
 「きゃー!」
 「どうしたフィービー?」
その声を聞きつけタンクが駆け寄る。
 「え、営業時間18時からだって……あと一時間もあるわ。」
フィービーが悲しげに呟く。
 「マジかよ!この調子じゃ他も同じような時間設定なんじゃ……」
タンクは来るのが早すぎたことに気付く。
 「とりあえず開いてる店もあるかもしれないから探そう。」
 「そうね!」

 それから二人は探し回るも、二軒目『STARrin』、三軒目『花吹雪jun』と立
て続けに同じ時間設定である。
 「もう、待つしかないわね。カフェでも行きましょ!」
フィービーが諦めて提案する。
 「……。」
タンクは数メートル先を見たまま無反応である。
 「カ・フェ!!!」
フィービーが更に大きい声で言う。
 「……。」
しかしタンクは無反応である。
 「何見てんのよ?……あ、資生堂パーラーね、見つけたなら早く言いなさいよ!」
 「……いや、その資生堂何ちゃらの前にいる女、例のギンザ女だ!」
 「そうなの?どれどれ……」
フィービーがギンザ女を視野に捉えた瞬間、タンクは走り出そうとする。
 「ちょ、待ちなさいよ!」
そのタンクの腕をフィービーは掴み動きを止める。
 「誰か待ってるみたいよ?待ち合わせかも。面白そうだからしばらく様子見ましょ!」
フィービーは再び楽しそうにそう言う。
 「いや、今ガツンと言ってやる、離せフィービー!!」
タンクはそう言うとフィービーの腕を振り解こうとする。
 「いいから待てっつーの!」
次の瞬間、フィービーがタンクの腹にドデカイのを一発喰らわせ、タンクの動
きを止める。
 「うぅ。」
タンクは呻きながら大人しくなる。
 それから一時間ほど。ギンザ女の待ち合わせ相手は一向に来ない。
 「誰も来ねーじゃねーか。男か?そりゃあの性悪な女じゃフラれるわ、ハハハ!」
タンクが高らかに笑う。
 「いや、顔は可愛いし、スタイルもいいし、服装も可愛いからモテそうね!」
フィービーが真剣な顔つきで言う。
 「いや、それはねーっしょ!モテるわけがないあんなヤツが。」
タンクは否定する。
 「あんた、あのギンザ女に惚れてんじゃないの?」
フィービーはちびまるこちゃんが『このいけづぅ』と言う時の顔でタンクを突
っつく。
 「ばっか、そんなことは天地がひっくり返ろうとない!ブーヤンが痩せることくらいありえねぇ!」
タンクはムキになる。
 「パッションね、フフッ。」
フィービーはいやらしい笑顔でからかう。
 それから更に30分後。ギンザ女の待ち合わせ相手は未だ来そうにない。
 「あー、イライラしてきた!フィービー、ゴーサインくれ!」
タンクは洋館のバルコニーの様に突き出た胸筋を摩りながら言う。
 「そうねぇ、そろそろいいかもね。てかあの女もこの寒い中よく何時間も待つわね~。あ、女が動くわ!!」
女は腕時計を見るなり、突然動き出す。
 「追うぞ!」
タンクがそう言った瞬間、タンクとフィービーの肩を誰かが掴む。
 「なんだ、コラ。」
そうタンクが言い、二人が振り返ると身長2メートルはあるかと思われ
るスキンヘッドの大男が立っている。
 「ウ、ウドハゲさん!」
タンクがビビリながら言う。
 「ウドハゲ?」
フィービーは呆気羅漢としている。
 「ブーヤン坊ちゃまのお仲間のタンクさんとフィービーさんじゃないですか。こんなところで連日何してるんです?」
ウドハゲは無垢な表情でタンクたちに尋ねる。
 「いや、ちょっと……。」
タンクは濁す。
 「あなたがウドハゲさんね。昨日話に聞いたわ。アハハ、まさに見た目通りでウケる!」
フィービーが無邪気に危険な台詞を吐く。タンクは隣で焦っている。
 「そうですか~?何か照れますね~。」
しかしウドハゲは低い声でそう言いながら照れている。その光景を見てほっと
していたタンクが痺れを切らして言う。
 「やべ、そーいやギンザ女見失った!」
 「そうね、でもウドハゲさんに会えたから私は別にいいわ。」
フィービーは無邪気な笑顔で言う。
 「いや、そういうことじゃ……ってそれだ!」
タンクはポール牧バリに指をパチンと鳴らす。そして続ける。
 「ウドハゲさん、昨日のチラシのキャバクラどこにあるんすか?」
 「あー、『キャバレーBEACH VOLLEY』ですね。それならご案内しますよ。」
ウドハゲはそう言うと歩き始める。タンク、フィービーもそれに続く。
 歩き始めてしばらくしたところで、ウドハゲが口を開く。
 「タンクさん、実はそういう店好きなんじゃないですか、強がっちゃって。」
ウドハゲが不気味な笑顔でタンクに語りかける。
 「いや、別に行きたくて行くわけじゃ……。」
タンクは弁解する。
 「目的は違えど行きたくて行くんでしょ!男なら言い訳しない!」
フィービーが面白半分で突っ込む。
 「まあ、行かなきゃならない理由があるからだけど。」
タンクは半ば認める。
 「ははは、いいんですよ、若いうちは色々見た方がね。」
ウドハゲは低い声で笑いながら言う。

 五分も経たないうちに『キャバレーBEACH VOLLEY』へと到着する。
 「着きましたよ、それじゃタンクさん、フィービーさん、ボン・ヴォヤージュ!!ははははははっ!」
目的地に着くとウドハゲはメルヘンとは程遠い顔と声と頭で、メルヘンの代名
詞ディズニーランドのキャストバリの挨拶をして去っていく。
 「ありがとうございましたウドハゲさん!!」
タンクが深々と頭を下げお礼を言う。
 「ありがとうね海坊主!!」
フィービーは笑顔で手を振る。ウドハゲは振り返り二人のことをチラッとみて
笑顔を溢すと、闇の中へと去っていく。そう闇の。
 「ここか……、よっしいくぞ!」
タンクが気合を入れる。
 「突入せよ、銀座でビーチバレー事件、冬なのに!」
フィービーは無邪気な笑顔で声を上げる。そして二人は二階にあるキャバクラ
へと階段を昇っていく。
 「いらっしゃいませ、二名様ご来店でーーす。」
店に入ると、茶髪のお兄さんが威勢のいい声を上げる。店内にはトランスがガ
ンガンかかっている。茶髪のお兄さんに店内全体が見回せるという、VIP席
へと案内される。キャバクラ店において一見の客はそういった席に案内させる
のが鉄則だ。
 「何かうるさくて落ち着かないとこだぜ。」
タンクは店内を見回して漏らす。
 「どんな女の子が付くのかワクワクね!」
フィービーが本来なら男が言うであろう台詞を言う。タンクは落ち着かない感
じで店内を見回し続け、フィービーはソファーを叩いたり、立ち上がり天井に
ぶら下がっているミラーボールを掴み取ろうとしたりしている。しばらくそん
な風にして二人が待っていると、絶対名前は『まき』であろうと思われるほど
に髪の毛をカールさせたギャル系の女の子と、ゴージャスな黒髪で栗山千秋を
思い起こさせるような女の子が二人のテーブルに来る。
 「はじめまして~、まきでーす。」
案の定まきである。
 「クリでーす。」
苗字の方できた。とその二人が席に付く。
 「はじめましてフィービーでーす。」
フィービーもキャバ嬢の如くまきとクリに挨拶する。
 「……。」
タンクは黙ったままである。
 「女の子が来るなんて珍しぃぃ。」
まきがブリッコ全開でフィービーを見て言う。
 「でしょ?かわいいでしょ!」
フィービーも負けじとブリッコで返す。
 「うん、ちょーかわいい!」
まきもブリッコ100%中の100%で返す。
 「その髪の毛とぐろ巻いてるみたいね!」
フィービーはブリッコで毒を吐く。そんな二人はタンクとクリを置き去りにブ
リッコ大戦に突入する。
 「お兄さんすごい良い筋肉してますね、例えるならスタートした直後の逃げ馬みたいな筋肉!」
クリはタンクのタンクトップからはみ出した、中学校の校舎に原付で入る生徒
くらいはみ出した胸筋を見て言う。
 「おお、よくわかってるね、馬の筋肉で例えられたのはじめてだよ!」
さっきまで浮かない顔をして黙っていたタンクが、筋肉について触れられたこ
とで急に気を良くし声を発する。
 「男にとって重要な筋肉は何処だと思う?」
気を良くしたタンクは得意分野筋肉クイズに入る。
 「後背筋と腹筋かな、あと大腿三頭筋!」
クリはクイズに答える。
 「違うね、全部だね。重要じゃない筋肉なんてないんだ!筋肉というのは筋繊維をトレーニングで傷めることによってその一本一本がより強度を増していく……それで超回復っていうのは人によって……」
ここから永遠タンクの筋肉論が続くのは言うまでもない。
 そして店内に入ってから一時間ほどが経過。依然タンクとフィービーはそれ
ぞれクリとまきと話し込んでいる。その時タンクたちのテーブルの横をツンと
した感じのキャバ嬢が通る。
 「でね、プロテインの主流であるホエイたんぱく質はね、牛乳の……!?」
その通過したツンとしたキャバ嬢にタンクは目を止める。そして急にソファー
から立ち上がり大きな声を出す。
 「そうだ!こんなことしに来たんじゃなかったぞ、フィービー!!」
 「もちろん知ってる。とりあえず座りな!」
フィービーはブリッコモードから素に戻り言う。
 「いや、あいつがいたんだよ!」
タンクは言う。
 「だから知ってるから座れって!」
 フィービーが喝を入れる。タンクはとりあえず座る。
 「ねぇ、まきちゃん、あの娘と話したいからちょっと変わってもらえる~?」
フィービーはブリッコモードに戻り、ツンとしたキャバ嬢を呼ぶようまきに頼
む。
 「はーい、ちょっと待っててね!」
そう言うとまきはツンとしたキャバ嬢が通り過ぎた方へと立ち去る。
 数分後、タンクとフィービーのテーブルにツンとしたキャバ嬢が現れる。そ
う例のギンザ女である。
 「ご指名ありがとうございます、支笏子です。」
ギンザ女は早速挨拶をする。なんと源氏名は湖の名前である。
 「失礼しまーす。」
ギンザ女はタンクにまるで気付いていないかのようにソファーに腰掛ける。
 「おい、テメェ何とか言ったらどうなんだよ!忘れたとは言わせないぜ。」
ギンザ女が座るなりタンクが言う。
 「はい?お客様何かお飲みになられますか?」
ギンザ女タンクをスルーする。
 「飲み物がどうとか関係ねーんだよ!オレはテメェに飲み物じゃなくて喝を入れにきたんだからよ!」
タンクはギンザ女の態度にイライラしながら言う。その光景を見て何かを察し
たクリは席をはずす。ギンザ女は依然として知らぬふりである。
 「何とか言え、コラ!」
店内に軽く響き渡るくらいの声でタンクが叫ぶ。
 「……。」
ギンザ女は反応しない。
 「ごめんなさいね、こいつ何か勘違いしてるみたいだから。それより支笏子ちゃんって面白い名前ね!」
そんなタンクに一瞥を加えながらフィービーが口を開く。
 「ありがとー、その金髪素敵ですね!」
ギンザ女はフィービーに答える。
 「おい!」
タンクが声を出すがギンザ女は反応しない。
 「サラサラでいいでしょ、まるで川の流れのようでしょ、ドブ川!」
フィービーが髪を靡かせながら言う。
 「あははは、面白いですね、お姉さん。」
ギンザ女は楽しげな笑顔を浮かべる。
 「ふざけんな、テメェそんなんだから待ち合わせの相手にもすっぽかされんだよ!バカみたいに寒空の下待っちゃったりしてよ!」
タンクが怒りが頂点に達し言う。するとそれを聞いたギンザ女の顔が曇る。そ
して気が付くと般若のような顔になっている。
 「なんも知らないあんたがとやかく言うんじゃないわよ!ちょっといいことしたからってまだお礼が足りないって言うの?結局またお金でしょ。そうやって付きまっとって、うさんくさい正義感出して、いい加減にしなさいよ!どうせ金か体が目当てで近寄ってきてんでしょ、この偽善者!」
ギンザ女はすごい剣幕で怒る。
 「コノヤ……」
タンクが怒りかけたとき、タンクの前に手が伸びる。
 「ガタッ。」
次の瞬間フィービーがギンザ女の胸倉を掴み、席から立たせている。
 「あんたいい加減にしなさいよ、あんたこそこいつのこと何も知らないくせにウダウダ言ってんじゃないわよ!結局金なのはテメェだろ!偽善者もテメェだろ!そうやって人の善意踏みにじって、この店ではナンバーワンかもしれないけど、その前にあんたは最悪な人間ナンバーワンね!」
フィービーが全く別人のように、鬼のように声を荒げる。
 「ちょっとお客様……」
その光景を見た茶髪のお兄ちゃんが止めに来る。そして二人は店から追い出さ
れる。
 「フンっ。」
二人が席から立ち去るとき、ギンザ女はシワのついた胸倉を押さえつつ、ツン
とした台詞を吐く。
 
 「フィービーありがとな。なんかムカついたけどすっきりしたわ。」
店を出たところでタンクが言う。
 「ありえない女ね。」
フィービーもまだ納まりきってない心で言う。
 「あ……。」
階段を下りたところでタンクの目にあるものが飛び込んでくる。
 「どうでした?」
そうウドハゲだ。
 「まだいたんですか?」
タンクが不思議そうに聞く。
 「いやね、タンクさんのお人柄は坊ちゃまから聞いております。それでわけありだなと感じたので待ってました。あの女ですが、いつもさっきの資生堂パーラーの前で誰か待ってますよ。五時きっかりになると決まって。雨の日でもね。」
ウドハゲは低い声で言う。
 「……。」
タンクは黙ったままである。
 「ただそれを伝えとこうと思いまして。それじゃ私は仕事がありますので。」
そう言うとウドハゲは優しげな微笑を浮かべ闇の中へと去っていく。そう闇の。
 「……やっちまったかな。」
タンクは呟く。そんなタンクを見てフィービーはポンとタンクの肩を叩き頷く。
 

八章  資生堂パーラー
 「こんばんは、滝川クリステルです。」
ペンタゴンではニュースジャパンが流れている。ターバンがソファーに腰掛け
腕組みしながらそれを観ている。そしてテレビの脇にはヘッドホンを付け鏡の
前で踊るサムの姿。三人がけのソファーにはモノポリーに熱中するグラサンと
ブーヤンがいる。
 「しかし滝川っていい苗字だな。」
ターバンがふと漏らす。
 「ああ?じゃお前滝川ターバンにしろよ!」
グラサンがそれに突っ込む。
 「あはは、それ面白いですね。じゃあグラサンさんは森田グラサンですかぁ?」
ブーヤンがチョコフレークを片手に笑顔で言う。
 「そうそう森田……ってタモリかよ!だれがサングラスだ、うりぃぃい!」
グラサンがノリツッコミをした後ブーヤンに飛び掛る。
 「カチっ」
突然サムが動きを止めヘッドホンをはずす。
 「森田グラサン……バカウケだな。」
サムがボソッと言う。
 「コノヤロ、サムぁあぁぁ!!」
グラサンがキレかかる。
 「っと、おかえりだ。」
そんなグラサンを笑顔でよけつつサムが言う。
 「おう。」
タンクがボソッと言う。
 「フィービー様の帰還よ!」
フィービーがハイテンションで言う。
 「おう、お前らどうだったよキャバクラはよぉ!」
グラサンが笑顔で語りかける。
 「超楽しかったわよ、女の子は私に及ばないまでも可愛かったし!」
フィービーが嬉しそうに答える。
 「で、例のギンザ女には会ったのか?」
ターバンが滝川クリステルを見ながら聞く。
 「ああ。」
タンクが低いトーンで答える。
 「あの女は有り得なかったわね、思い出すだけで胸がギュットなる……ってかイラっとなるわ!」
フィービーが強い口調で言う。
 「SPEEDか、懐かしいフレーズだな。」
サムが90年代ミュージックに反応する。
 「そう、胸がギュッとなるわけじゃないけど、すっきりしないこともあってよ。まあもうあのギンザ女の話はやめようぜ。」
タンクが腕、というより上腕三頭筋を摩りながら言う。
 「そうですよ~、もう忘れてモノポリましょうよ!」
ブーヤンがタンクの表情を見てそう言う。
 「そうね、モノポって忘れましょ。」
フィービーがタンクの肩に手をあてて言う。
 「開始の合図、頼む。」
ターバンがそう言うとサムがグラサンに思いっきり肩パンを入れる。
 「うりぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃいいいいぃ!!」

 それから数日が経ったある日。
 「カシミヤのロングコート2万9800円、こちらお色は二種類用意しております。」
ペンタゴンではレディス4が流れている。それをグラサンが無駄にタバコをふ
かし、ソファーにふんぞり返りながら見ている。そしてカシミヤに反応したフ
ィービーもベトナムフォーを食べていた手を止め、レディス4へと目をやって
いる。ターバンは頭のターバンを目深にかぶり、三人掛けソファーで本を持っ
たまま昼寝をしている。
 「カシミヤがこの値段なんて安いわね。でもそれ以上にこの番組安っぽいわ。」
フィービーがレディス4に突っ込みを入れる。
 「てかこの番組こそ子守唄だぜ!」
グラサンも評論する。と、その時、
 「レディーース、フォー!!」
いつになくハイテンションで、短パンに皮ジャケ姿のサムが、タンク、ブーヤ
ンと共に部屋に入ってくる。そう、レイザーラモンHSバージョンである。
 「ハイテンションキャッチボールやってきたぜ!」
タンクがいつも通りの暑さを胸、というより大胸筋に秘めた台詞を吐く。
 「コイサーでしたねぇ、サムさんのポニーテールバッティングは健在でした!」
ブーヤンもナイアガラの滝のように汗を流しながら、全快の笑顔で言う。
 「お前らいい感じだな、じゃあこのままの流れで『ロートーンだけどハイテンションモノポリー』に突入するってことだな。」
ターバンがロートーンで笑顔を浮かべ言う。
 「モチのロンだよな!?」
グラサンも貰いハイテンションで言う。
 「イエース、ジーザス!」
サムもハイテンションで親指を立てる。
 「じゃあ、突入せよ、『ロートーンだけどハイテンションモノポリー』!」
タンクがフィービーの例のフレーズをパクって言う。
 「ちょっと!」
フィービーが叫ぶ。
 「わりーわりー、著作権料払うから。」
タンクが笑いながら言う。
 「違うわよ、ニュース速報で銀座で大規模火災発生だって。」
フィービーがテレビを見ながら手招きをしつつ言う。
 「銀座?」
タンクが銀座というワードに反応する。
 「チャンネル変えるぞ、フィービー。」
ターバンがそう言うとリモコンを操作する。
 「ただいま銀座四丁目の現場に来ております。この火災は銀座フォービルより発生し、周囲のビルに次々と燃え移っている模様です。」
テレビでは緊急番組の記者が状況を語っている。
 「銀座か、四丁目ってどこだよなぁ?」
グラサンが適当にテレビに突っ込んだ瞬間、タンクは突然部屋を飛び出してい
く。それに続いてフィービーも真顔でタンクの後を追う。
 「なんだなんだ?」
グラサンはわけも分からず入り口のドアの方を見ながら言う。
 「そうですよね……。」
ブーヤンは一人で納得した台詞を吐きペンタゴンを飛び出す。
 「ただごとじゃないでしょ、いくぞ、グラサン、サム。」
ターバンはそう冷静に言うとペンタゴンを出て行く。
 「追うぞ!」
サムがグラサンに言う。
 「うりぃぃいぃぃ!」
グラサンの雄たけびだけを残し、ペンタゴンは空になる。

 「あんた、電車使った方が早いわよ!」
全力疾走で元住吉の駅を通り過ぎるタンクに向かって、フィービーが叫ぶ。も
ちろんキックボード片手に。
 「うおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおおぉぉおぉぉぉぉ!」
タンクはその言葉を聞き入れることなく走り続ける。とそのタンクと併走する
ように一台のフルスモークの黒セルシオが現れる。そしてフルスモークの黒セ
ルの窓が開く。
 「タンクさん、乗って下さい!」
そう、ブーヤンである。ブーヤンは叫ぶ。
 「ナイス、ブーヤン!」
タンクはそう言うと黒セルの助手席へと乗り込む。フィービーは後部座席へ、
そして追いついてきたターバン、サムも後部座席へと乗り込む。
 「うりぃ、ちょっと待てオレが乗れねーぞ、ボケェ!」
最後のグラサンが乗れるところが無く叫ぶ。ターバンがグラサンにアゴで合図
する。
 (トランクに乗れ……か、仕方ねぇ。)
その合図を受け取ったグラサンはトランクへ入り込む。
 「それじゃあ行きますよ!!」
そうブーヤンが言うと、黒セルはF1カーのようなエンジン音を立てその場を
飛び出す。
 「やっぱ無理かも知れねぇ!!」
グラサンがトランクから叫ぶが、微かにしか聞こえない。そして面々はトラ
ンクの方を振り返り笑顔で親指を立てる。……がグラサンに見えているはずも
無かった。

 ペンタゴン面々が黒セルに乗り込んだ頃の銀座。火の手は拡がり、銀座フォ
ービルの隣に位置する資生堂パーラーに燃え移り始めている。
 「皆さん、非難してください!」 
消防、警察が現場を取り仕切っている。そして建物内の人々が全員非難できた
ところで、あたりは一旦安堵する。と、その時一人の女が燃える資生堂パーラ
ービルの前にひょっこりと現れる。ドン・ガバチョもビックリするぐらい自然
に。
 「おい、人がビルの前にいるぞ!」
 「あの子何考えてるのかしら、危ないわねぇ。」
周囲では人々がその登場に驚いている。もちろんこの女はギンザ女である。
 「そこの君、危ないから離れなさい!」
オマワリと火消し達は注意を促す。しかしギンザ女は例によってツンとしたま
まその場を離れようとはしない。
 「こっちへ来なさい!」
オマワリがギンザ女のところまで行き、腕を掴む。
 「ちょっと、離しなさいよ。」
そのオマワリの腕をギンザ女は振り解く。そこへ火消しも一人登場し連れて行
こうとする。しかしギンザ女はそれに応じようとしない。その時資生堂パーラ
ーの建物上部から燃えた建材が落下する。
 「ガシャン!」
激しい音と共にその建材はギンザ女たちのすぐ近くに落下する。
 「危ないから来なさい!!」
オマワリ、火消しは無理矢理ギンザ女を引っ張っていこうとする。丁度その時、
フルスモークの黒セルシオが銀座の街に到着する。
 「バタッ。」
黒セルのドア四つと、トランクが同時に開く。
 「すごい騒ぎになってるでしょ。」
燃え盛るビルを見上げてターバンが呟く。
 「うお、やべーなこりゃ、ザ・火事だぜ……。」
グラサンもトランクからビルを見上げて漏らす。
 「タンクさん、ギンザ女居ました!」
ブーヤンは資生堂パーラーの前でオマワリと火消しに抑えられているギンザ女
を指差し、叫ぶ。
 「やっぱりな……。」
タンクはそう呟く。フィービーもそれを聞き頷く。
 「随分騒いでるな、あの女。」
サムがギンザ女を見て呟く。
 「君、何してるんだ!死にたいのか!」
オマワリは必死でギンザ女を引っ張る。
 「だめなのよ、ここを離れるわけには行かないの!約束の場所なんだから!今日こそ来るかもしれないんだからー!!」
ギンザ女は泣きながら必死に資生堂パーラーの前に戻ろうとしている。
 「ワケありか。」
ターバンがそう呟いた時、タンクはターバンの横を颯爽と通り過ぎ資生堂パー
ラーに向かい走り出す。

九章  約束
 時は遡り十年前の銀座。日曜日ということもあり、多くの人々で賑わっている。
 「今日の夕飯は何がいい?」
お父さんが小学生くらいの女の子に話しかけている。
 「お寿司がいい!もちろんサビ入りね。」
女の子はお父さんと繋いだ手を大きく振りながら、笑顔でワビ・サビの効いた台詞を言っている。
 「じゃあまた玉寿司で買って帰ろう、早くしないとまるちゃん始まっちゃうしね。」
お父さんは笑顔で答える。そう仲睦まじい親子の光景である。
 「見て、あの子また私たちのこと見てる。いつも一人でじっと見てて気持ち悪い!目つきも悪いし!」
女の子は遠目に佇む男の子を見て言う。
 「そうかい?あまり人を決め付けちゃだめだよ、もしかしたら友達にだってなれるかもしれないんだからね。おっと、玉寿司にもう着いちゃった!お父さんの瞬間移動はすごいだろ?」
お父さんはしたり顔で女の子の顔を見る。
 「すごい、すごい……ってドラゴンボールか!神龍にお願いか!ギャルのパンティーか!」
女の子は突っ込み、親子は仲良く笑う。
 そして親子は寿司を買い家路へと着く。
 「早くいくら食べたいな!サザエさん観ながらのお寿司は格別だもん!」
女の子は満面の笑みでお父さんに語りかける。
 「そうだね、お父さんはサザエさんでいったら鯛が食べたいな、ガハハ!」
お父さんは若干やらしい顔で言い、豪快に笑う。
 「あ、財布……、玉寿司に財布忘れてきちゃった!」
お父さんは急に野球のキャッチャーがサインを出しているかのように身体を触
りながら、焦って言う。
 「え?それまずいじゃん、ったく!」
女の子は目を丸くして言う。
 「ちょっと取りに行ってくるから、資生堂パーラーの前で待ってて!ごめんすぐ戻るからね!」
そう言うとお父さんは小走りで来た道を戻り始める。
 「……もう!」
女の子は呟く。夕焼け空に五時のチャイムが鳴り響いている。

 お父さんは玉寿司へと到着する。
「あっ、良かった、財布ですよね旦那!」
お父さんの顔を見るや否や、玉寿司の大将が語りかける。
 「ああ、そうです、そうなんです、財布を忘れたんです。ありがとう大将!」
お父さんはほっとした顔で財布を受け取る。
 「気を付けなよ~、お譲ちゃんもそんなんじゃ困っちゃうぜぃ旦那!まあまた来てくれるかな?」
 「いいとも!」
大将のベタフリに笑顔で財布を持った手を挙げお父さんは答えると、足早に店
を出て行く。

 「おらぁ!おめぇみてーな野郎がオレにメンチ切ってんじゃねーぞ!」
 「そうだ、貴様誇り高きチーマーのボス、隆さんに謝らんかい!」
玉寿司の裏路地で目つきの悪い男の子がチーマーに胸倉を掴まれている。
 「……。」
目つきの悪い男の子は鋭い目つきで隆さんを凝視している。
 「てめぇガキだからって容赦しねーぞドカスがっつっっ!」
そう言うと隆さんは目つきの悪い男の子を殴り飛ばす。
 「……チッ」
目つきの悪い男の子は切れた口から流れる血を拭いながら舌打ちする。
 「この野郎!今舌打ちしたよなぁぁあ?鶏冠にきたぁぁぁああぁ!」
誇り高きチーマーのボス隆さんは鶏冠にきた。そして目つきの悪い男の子を見
たまま、手下のチーマーの方に手を出す。
 「遂に最終兵器投入っすね?さすが隆さん、かっこいいっす!」
そう言うと手下のチーマーはズボンの中から金属バットを取り出す。それを受
け取った隆さんは不的な笑みを浮かべながら言う。
 「今日がお前の命日だぜ、十月十七日、最終兵器、チェックしとけや!」
そして隆さんは金属バッドを目つきの悪い男の子に向かって振り下ろす。
 「ドゴっ!」
鈍い音が辺りに響く。
 「……何?」
隆さんは振り下ろした金属バッドを力なく手放し、唖然としている。そして手
下のチーマーもその光景を見ながら唖然と立ち尽している。
 「キミ達、弱いものいじめは良くないなぁ。」
そう言い、頭から血を流し目つきの悪い男の子をかばう様に屈んでいたのは女
の子のお父さんである。
 「やべー、逃げるぞ手下のチーマー!」
隆さんは焦ってその場を逃げ出す。さすが誇り高きチーマーのボスである。武
器を使い状況が悪くなると一目散に逃げるのだ。 
 「た、隆さん!待ってくださいよー!」
そう裏返った声で叫びながら手下のチーマーも隆さんの後を追って逃げ出して
いく。
 「……おっさん、赤の他人のオレなんか助けるからそんな怪我すんだよ……やめとけばよかったのによ……」
男の子は相変わらず鋭い目つきでボソッと言う。
 「はは、そうだね、おじさん熱くなりすぎたかな!いい刺激もらったよ。」
お父さんは頭から滴り落ちる血で真っ赤になりながら言う。男の子からしたら
まさに赤の他人である。
 「……病院いけよ。」
男の子は小学生とは思えないクールな台詞を吐く。
 「ああ、そうするよ!キミもきをつけなよ。人は見た目で判断するつまらないやつも多いからね。」
そういい残すと、お父さんは笑顔で去っていく。
 「……。」
男の子は無言で去っていくお父さんの背中を眺める。お父さんは歩き去りなが
ら振り向かずに手を挙げて振る。

 「っもう!遅いな~。」
女の子はしょうがない子ねぇみたいな表情で呟く。その表情には不安の色が浮
かんでいる。
 それから一時間。すっかり日の暮れた銀座の街に依然として佇んでいる。
 「なんで……。」
女の子は今にも泣き出しそうな顔で呟く。

 そしてその頃、お父さんは玉寿司近くの人気の無い路地裏に、頭から血を流
しピクリとも動かずに倒れている。

十章  前へ
 「お父さーーーーーーーーーーーーーん!!」
オマワリと火消しに引っ張られながらギンザ女は泣き叫んでいる。
 「ここじゃなきゃだめなの!私はここにいないといけないのーーーー!」
ギンザ女は必死の形相で叫び続ける。
 「何やってんだバカヤロー!」
そこへ颯爽と駆けつけてきたタンクがギンザ女を怒鳴りつける。オマワリと火
消しもそれを見て一歩下がる。
 「何にも知らないあんたに何がわかるのよ!赤の他人に何がわかるのよ!」
ギンザ女はタンクに怒鳴りつけ返す。
 「テメーが何のためにここにこだわるのか知らねーよ!赤の他人だから知らねーよ!でもテメーの身体はテメー自身だろ!ここじゃなきゃだめな前にお前じゃなきゃだめなんんじゃねーのかよ!」
タンクは火事の炎も恥ずかしくなるくらい熱い台詞で叫ぶ。とその時、大きな
建材が炎に包まれギンザ女の頭上から落ちてくる。
 「キャー!」
周囲はもう女の子は助からないと誰もが思い目を伏せる。
 「ドゴ……」
すさまじい音がし、次の瞬間ギンザ女とタンクがいた場所に建材が無残に落ち
散らばる。
 「タンクぁぁああああぁぁぁあぁああ!」
数メートル先で火消しに押さえられているグラサンが叫ぶ。と、次の瞬間、
 「……っく、危ないところですね。」
落ちていた建材が動く。そして持ち上がった建材は燃え盛ったままゴロゴロと
転がる。
 「う、ウドハゲ……さん?」
建材に脚を挟まれた状態で済んでいたタンクは痛みに耐えながら言う。そして
ギンザ女に覆いかぶさる形で、ウドハゲが背中で建材を受けている。
 「……な……なんで」
ギンザ女は恐怖に涙を浮かべた目でウドハゲに語りかける。
 「私なんかのために何で……すごい血も出てるじゃない・・!」
ギンザ女は背中から大量の血を流すウドハゲに、続けて語りかける。
 「はは、そうだね、おじさん熱くなりすぎたかな!でもいい刺激もらったよ。」
ウドハゲは背中と頭から大量の血を流しながら笑顔で言う。
 「とにかくここを離れるぞ!」
そんなギンザ女に向かって、タンクが片足を引きずりながら言う。そしてギン
ザ女とタンク、ウドハゲの三人は火消しとオマワリに支えられその場から離れ
る。

 火消しとオマワリに誘導され、三人は救急車に向かう。その時、
 「パーン」
現場の騒々しさをも吹き飛ばす音が鳴り響く。気がつくとフィービーがギンザ
女にドデカイ平手打ちを一発食らわせている。
 「な……、なにすんのよ!」
突然の出来事にびっくりした顔でギンザ女は怒鳴る。
 「あんたね、あんたに何があったのか、あの場所に何があったのか知らない。ただね、どんな状況でも前を向いてなきゃ前には進めないのよ!戻れる場所が無いなら前に進みなさい!」
そう言うとフィービーはスグにその場を立ち去る。
 「……」
ギンザ女は赤く腫れた頬を摩りながら呆然と立ち尽くしている。
 「フィービー……」
立ち去るフィービーを見ながらタンクが呟く。
 「……あ!財布!財布がない!」
その静寂を破るように、ギンザ女は我に返り突然叫ぶ。
「戻らなきゃ、財布だけでも……あの財布だけでも!」
ギンザ女は横で支えている火消しの手を振り解いて現場に戻ろうとする。
 「コラ、ダメだ、危険だから諦めなさい!」
火消しは必死にギンザ女を取り抑えながら言う。
 「いや、諦める必要はないぜ。」
タンクが笑顔で呟き、アゴで現場の方を指す。そして火消しとギンザ女は現場
の方へと目をやる。するとターバン、グラサン、サム、ブーヤンが引き止める
火消したちを張り倒し現場へと向かっている姿が見える。
 「うりぃぃいぃいいいぃ!」
遠目にグラサンの叫び声がこだましている。
 「……なんで……」
ギンザ女はその光景を見つめながら小さな声で呟く。

 それから数十分後、燃え盛っていた炎は鎮火され、あたりは安堵の色に包ま
れている。そしてタンクは日々の鍛錬から病院には行かず、足に包帯を巻いた
応急処置だけを受け、ウドハゲは職業柄病院に搬送されるのを力ずくで避け闇
の世界へと戻り、そう闇の世界へと戻り、かすり傷で済んだギンザ女は救急車
脇で毛布に包まれ俯いている。
 「ポン」
そんなギンザ女の膝の上に財布が投げられる。
 「……あ」
それに気付いたギンザ女は、財布を無言で一撫でし、徐に顔を上げる。
 「財布、返しとく。大事なものなら二度と失くさないよーにな。」
煤で汚れたターバンを押さえながらターバンは一言呟く。そして去っていく。
 「……ありがとう。」
ギンザ女はトーイックのリスニングくらい聞き取りにくい声でポツリと言う。
そして財布を大事に胸に抱える。
 ギンザ女から数十メートル離れた場所で、ペンタゴンの面々が談笑している。
 「文字通り熱い火事だったぜ!!」
グラサンが煤まみれの身体で嬉しそうに言う。
 「アイスも溶けちゃいましたよー、チューペットもジュースになっちゃいました!!」
ブーヤンがデブ発言をする。
 「チューペットってお前、夏か!」
タンクが突っ込む。
 「チューペット懐かしいな。」
90年代のお菓子に反応したサムが呟く。そう、サムは音楽だけではなく90年
代フリークなのだ。
 「てかブーヤンそれ私のチューペットでしょ?ざけんな!」
フィービーが素ギレする。
 「すみませんフィービーさん、半分あげますから~。」
ブーヤンが申し訳なさそうに言う。
 「全部よこしなさい!!」
フィービーが間髪を入れずに言う。
 「あはははは!」
ペンタゴン一同は火事現場で不謹慎に大声で笑う。
 「……。」
ギンザ女はその光景を遠目に無言で見つめている。
 「ほらよ。」
と、その時ギンザ女の背後から、サムがコーヒーと雷おこしをギンザ女に手渡
す。そしてポニーテールを靡かせ去っていく。
 
「いつからだ?」
ペンタゴン面々から少し離れた路地裏で、いつの間にか移動したブーヤンがウ
ドハゲに語りかける。
 「一年ほど前からですかね、銀座で仕事をするようになってしばらくしてからです。」
ウドハゲは笑顔で静かに語る
 「そうか、詳しくは知らんがあのギンザ女に言わなくていいのか?」
ブーヤンは落ち着いた声で聞く。
 「いいんです。私ももう堅気の人間ではないですし、迷惑はかけられません。あの子もきっと気付いたハズです。ま、これからも遠目から見守っていきますよ、ブハハハハハっ!」
サングラスの奥に悲しげな表情を浮かべながらウドハゲは笑う。
 「そうか、お前の人生だからな、好きにしろや。」
ブーヤンはウドハゲの肩をポンと叩き呟く。

 「帰ってモノポリーでもやんべよ!!」
グラサンが小学生の下校途中のような会話を振っている。
 「だな!再戦だな。」
サムも同調する。
 「おっしゃ、行こうぜ!」
タンクがそういって手を挙げると、ペンタゴン面々は黒セルへ向かって動き出
す。
 「……おいしい。」
その光景を見つめ、雷おこしをかじりながらギンザ女は呟く。目にはうっすら
と涙を浮かべながら。これまで人を信じることなく生きてきたギンザ女にとっ
て、ペンタゴン面々に当に「雷をおこされた」ような衝撃が走っていた。そし
てギンザ女の胸には人はおこしの米のように、一人一人ではバラバラで、ボロ
ボロになってしまうものだが、それが集まったときにいい味が出ることも、痛
いほど染み渡っていた。冬の銀座の汚い空に、一つの奇麗な北極星が輝いてい
る。

十一章  あきない
ギンザ女騒動から数日後のペンタゴン。
「ウチくる?いくいく!」
中山秀行とクボジュンが薄暗いペンタゴンで明るくしゃべっている。もちろんテレビの中だ。だがペンタゴンの誰一人にもその声は届いていない。静まり返るペンタゴン。ソファーで脚を絡ませあって眠るタンクとブーヤン。テーブルに座ったまま突っ伏しているフィービー。サングラスの上からアイマスクをかけ床で豪快に眠るグラサン。裸の上半身の調度両胸の上にチャゲアスのCDを乗せて横たわるサム。どっちがチャゲでどっちが飛鳥なのだろう。立ち位置からすると左がチャゲだろうか?そんな日曜日のペンタゴンの光景である。
 「ドンドンドン。」
ドアを誰かがノックする音がペンタゴンに響き渡る。
 「グァー……。」
ペンタゴン面々は眠りこけていて気付かない。
 「ドンドンドン。」
またドアがノックされる。
 「グァー……。」
それでもペンタゴン面々は眠りこけている。
 「ドンドンドンドンドンドンドン。」
と三回目がノックされたその時、
 「三三七拍子鳴らしてんじゃねーぞ、クソがぁ!」
突然怒鳴り声と共にグラサンが起き上がる。
 「ドンドンドン。」
再びドアがノックされる。
 「マグでボコにしてやっから焦んなコラっ!」
怒れた形相でグラサンがドアを思いっきり開く。
 「あ……あの……。」
そこには例のギンザ女がちょこんと立っている。
 「……。」
グラサンはそれまでの勢いを全て失い呆然としている。楕円形のサングラスを丸くして。
 「……はぁ?」
しばらくしてグラサンが漏らす。
 「あ、あの……。」
ギンザ女はモジモジ君になっている。
 「入れや。」
グラサンは小さな声でそう呟くと、ドアをあけたままソファへと座る。
 「失礼しまーす。」
小声でそう呟くとギンザ女は中にそーっと入ってくる。そしてソファのあたりにきた時、ギンザ女のカバンが何かにぶつかる。
 「あっ。」
ギンザ女は訝しげにカバンのぶつかったものの方を見る。そうタンクの脚である。
 「……ん?何だ。」
眠気眼のタンクがソファから顔を上げる。そしてギンザ女と目が合う。
 「うわっ!」
タンクは数秒止まった後、驚いて立ち上がる。
 「な、な、何でテメェがここにいんだ!遂にオレのタマ狙いにきやがったのか!」
タンクはデカイ声で叫ぶ。
 「別にあんたに会いに来たわけじゃないわよ!大体昼の何時だと思ってんのよ!バカみたいに寝てんじゃないわよ!!」
ギンザ女も焦った表情で耳を真っ赤にさせながら負けじと叫ぶ。その声でペン
タゴン面々は全員目を覚ます。その状況を見つめながらグラサンは微笑を浮か
べている。
 「あぁ、あたしが声かけたのよ。やっぱり来た。ホント女って単純。」
フィービーが吐き捨てる。
 「きちゃった!」
その声にギンザ女も不意に彼氏の家にきちゃったみたいな感じで可愛く言う。
 「フィービー、どういうつもりだよ!こんなやつこの神聖なペンタゴンに呼ぶんじゃねーよ!」
タンクは強がり気味で言う。
 「そうですかぁー、タンクさんこの前火事の火よりも熱く燃え上がってたじゃないですかぁ。」
ブーヤンが目ヤニいっぱいの顔を厭らしくしながら言う。
 「別にいいじゃねーかよ、ペンタゴンに入る資格は熱意だけだしな。」
グラサンがソファにふんぞり返りつつ言う。
 「よろしくお願いします!」
キャバクラのご挨拶のようにギンザ女は言う。
 「まあ、仲良くしようやギンザちゃん。一つ屋根の下で。」
フィービーがそう呟く。
 「一つ屋根の下か……。」
90年代ドラマの匂いに反応したサムが徐に呟く。そう言わずもがな、サムは90
年代フリークなのだ。
 「ちっ、しゃーねーな。」
タンクは嫌そうな顔をしながらもそう言うとソファに座る。だが口だけは笑っ
ている。と、その時、
 「ドンドンドン。」
また何者かがペンタゴンのドアをノックする。
 「誰だ?お前二人いたのか?」
グラサンがアホなことを言う。
 「ドンドンドン。」
再びドアがノックされる。
 「さっきの録音したからきっとそれね!」
フィービーが無邪気な笑顔で言う。もちろん録音はしていない。
 「ドンドンドンドンドンドンドン。」
と三回目がノックされたその時、
 「三三七拍子鳴らしてんじゃねーぞ、クソがぁ!」
グラサンが再び怒鳴りドアの方へと向かう。そしてグラサンがおもクソドアを
開く。
 「ターバンを出せ、早くしねーと殺るぞ……。」
そこには中肉中背中国系酎ハイ大好きな感じの男が、刃渡り60㎝はあるかと
思われるナイフを両手で握り締め立っている。
 「おい、落ち着け!てかお前誰だよ!」
グラサンが一歩後ろに下がりつつ言う。
 「うるせー、いいからターバンを出せ!刺し殺すぞ色眼鏡野郎!」
酎ハイ大好きな感じの男は常軌を逸した感じで叫ぶ。
 「誰が色眼鏡だこの野郎!ボコにして沈めん……」
グラサンが途中まで言いかけたところで酎ハイ大好きな感じの男がナイフをグ
ラサンに突きつける。
 「威勢がいいのはいいけど立場わかってんのか?なぁタモリくん。」
酎ハイ大好きな感じの男は調子に乗り言う。
 「……くっ。」
グラサンは拳を握り締め、血管を浮き上がらせながらも耐えている。そしてペ
ンタゴン面々はタモリくんにバカウケし笑いを堪えている。
 「落ち着け、ターバンは今いないんだ。」
タンクがすかさず声をかける。
 「嘘つくんじゃねぇ!ターバンがテメェらと映ってんのをテレビで見たんだ!。この前の銀座の火事の映像でよぉ!」
酎ハイ大好きな感じの男は無我夢中で叫ぶ。
 「だから『今』いないつってんだろ、アホかあんた!」
フィービーが逆上させかねない台詞を吐く。
 「まあ落ち着いてくださいよぉ、ホントにいないんで入って確かめますか?」
ブーヤンが落ち着き払って言う。
 「おう、中見せてもらおうじゃねーか!」
酎ハイ大好きな感じの男は意外と素直である。とその時、
 「ドゴ。」
鈍い音と共に、酎ハイ大好きな感じの男は倒れこむ。
 「こいつ危険でしょ。危ないやつだな。」
調度帰宅したターバンが酎ハイ大好きな感じの男の首に一発入れた後そう呟く。
 「おい!ターバンこいつ何モンだよ!危ねーだろーがクソ!」
グラサンが緊張が解け叫ぶ。
 「わりぃ、わりぃ、オレもこいつ知らないんだわ。」
ターバンが苦笑いをしながら言う。
 「相当恨みある感じだったわよ?」
ギンザがターバンに言う。
 「しらねーな、てかお前来たんか。まあゆっくりしてけや。」
ターバンはギンザがいたことの方が気になるといった感じでそう言うとペンタ
ゴンの中へと入っていく。
 「このドクソがっっ!。」
グラサンは倒れている酎ハイ大好きな感じの男を思いっきり蹴飛ばしドアを閉
める。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です